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第7話 高瀬

ーーー・・・・・ 「景ちゃ~ん」 少し遠くから呼ばれてそっちを向けば、 いつものふにゃりとした笑顔付きで哲至が手を振っている。 恥ずかしいと思うより先に俺も思わず笑って、そうして軽く手を挙げた。 「なんか久しぶりって感じ」 いつもの調子で哲至が言って 「だな。毎日顔は合わせてるんだけどな」 こちらもいつもの調子で応える。 でも実際、病院の外で 白衣を着ていない同士でこんな風に話すのは、久しぶりだった。 哲至はなかなか腕のいい医者だったし、 人当たりがいいから患者にも人気で、 彼を指名してくる患者も少なくはないと知っている。 そうして、 哲至が俺の名を呼んだときから気づいてる、 所在なさげに哲至の隣にいるはじめてみる若い男に視線を移すと 「こちら、親友の高瀬景一朗くん。同じ病院に勤めてるんだ」 すかさず、哲至が俺を紹介してくれた。 「どーも。高瀬です」 職業柄、こういった挨拶の笑顔はもうクセのようなものだ。 すると、その少年はこちらを真っすぐに見る。 それはとても可愛らしい瞳だった。 「はじめまして。結川真乃斗です」 「よろしくね」 彼がいったい、哲至の何なのか、そして、 どうして彼をココに連れてきたのかもわからないまま、軽く会釈する。 前髪も襟足も長くて、フワリとそれが軽やかに揺れていた。 明らかに俺たち・・・俺と哲至・・・よりずいぶん若いことだけはわかる。 すると哲至はやっぱり微笑みながら 「景ちゃん。これ、俺の弟」 と、サラリと言った。 「え?おとうと?」 「ん。そう」 無意識に瞼がせわしなく動いて、思わず視線を真乃斗くんに移すと、 チラリと合った視線は、どこかうつむき加減で揺れていた。 いきなり連れて来たその「ザ・若者」「ザ・学生」って感じの彼が、 哲至の弟だと聞いてかなり驚いた。 少なくとも俺と哲至は同じ大学で4年間を共に過ごし、 その後、同じ大学病院に勤めだしてからも それなりに親しい間柄のはずだった。 実際、哲至は俺を「親友」と言って、真乃斗くんに紹介してくれているのだし。 それなのにいまのいままで、 年の離れた弟がいるなんて話しは聞いたことすらなかったからだ。 そしてなにより可愛い目をしたこの彼は、 自分を「ユイカワ」と名乗っていたはずだった。 「、、、お前、弟なんていたの?」 少し考えて、そんな風に聞いてみる。 「ん。いたんだ」 それ以上もそれ以下もないって返事を哲至がする。 納得できるようで出来ないような曖昧な状態の中、 俺は無意識に頭をコクコク動かして、 なんとか状況を把握しようと努めた。 「俺、腹減っちゃった。ねぇ、真乃斗くんなに食べたい?」 「オレは・・・なんでもいいです」 「高くてもいいよ。今日は景ちゃんが奢ってくれるんだから」 「おいおい、なんだそれ。聞いてないんだけど」 突然でてきた自分の名前とその内容に反射的に返事をして、 二人の会話の違和感を感じながらも真乃斗くんに視線を合わせた。 「なんか食べたいものあれば遠慮なく」 「景ちゃんは美味しいお店いっぱい知ってるから」 二人のオトナに交互に視線を合わせた真乃斗くんの、 喉仏が上下に動くのが見えた。

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