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第10話 高瀬

「病気かなんか?」 きっと病気だろうと思いながら、あえて少しだけぼやかした。 それは礼儀のようなものだ。 「ん。そう」 おそらく、真乃斗くんの父親はすでにいなくて、 真乃斗くんの・・・哲至のでもある・・・母親は病気で亡くなって、 未成年の真乃斗くんは身寄りがいなくなってしまったということだろう。 「ずっと海外にいたらしいんだよ」 アメリカのなんとかっていうところ、と哲至が言う。 明らかに今日は哲至の話す量が多くて、 親友のいつもと違うそんな姿は、俺を少しソワソワさせた。 ここまでわかったことの要点だけを整理してみる。 真乃斗くんの父親は、小さなころに亡くなってしまっている。 真乃斗くんの母親が、真乃斗くんを育ててきた。 真乃斗くんはずっと海外で暮らしてきた。 真乃斗くんには日本に知り合いがいない。 そして、真乃斗くんと哲至の母親が同じ。 それはつまり、、、 「真乃斗くんにとって、いま生きてる血縁関係者はお前だけってことか」 「ん。そうみたい」 なんとなく、外の景色を見るとそこには、 太陽の光がまぶしい、春の午後の平和な景色が広がっていた。 ーーー・・・ 「真乃斗くんのお母さんが、、、つまりはそれは俺の母親でもあるんだけど。 入院してた病院から俺の親父に連絡が入ったらしいんだ。 そんで、俺には内緒で向こうへ行って、真乃斗くんに会ったって」 黙ってうなずく。 いま出来ることはそれくらいしかない。 「真乃斗くんも、俺の存在はずっと知らなかったみたいなんだ」 「、、そうか」 「向こうで葬式やなんかの手続きを俺の親父が全部やってくれたみたい。 そんで、身寄りのない真乃斗くん独り残して帰ってくるわけにもいかなくて、 とりあえず連れてきたって」 「哲至の親父って感じだな」 「連れて帰ってきたあとで、俺に知らせるところがね」 二人して笑った。 これは決して不謹慎な笑いではない。 哲至と、哲至の親父さんの・・・もっといえば、哲至の養母すらも・・・ 優しさが、 その未成年をそのまま、放ってはおけなかったのだ。 「真乃斗くんは俺のいない実家に、血のつながらない親父たちと住んでる」 哲至の言い方に、 戸惑いとやり切れなさのようなものと、 それから同情や献身や思いやりのようなものが混ざった、 何とも言えない揺れるナニカが見える気がした。 話しを聞いたのが夜ではなくて、 春の光が溢れるこんな場所でよかったと思った。

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