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第11話 真乃斗

目の前の、きっと二枚目って呼ばれるであろう部類の、 大人の男を見つめて思わず笑う。 「ん?なに?」 整った顔がどこか台無しになるくらい、 両頬をパンパンにしてご飯を頬張る高瀬さんは、 いつものどこか落ち着いたオトナの感じとちょっと変わって突然、 年甲斐もなく可愛くなるのだ。 「高瀬さんってホントに美味しそうに食べるなって思って」 「そう?」 効果音をつけるとしたら絶対、もぐもぐって音だなと思いながら、 高瀬さんを眺め続ける。 「うん。作った人がここにいたら、絶対喜ぶ顔してる」 「まぁ食べるの好きだしね」 そう言って笑う高瀬さんは本当に喜び感じてるんだなってわかって、 こっちも勝手に嬉しい気分になった。 高瀬さんとご飯を食べるとき、オレは気づくと高瀬さんを見てしまう。 それはもう無意識に。 だって本当に美味しそうに食べるのだ。 「真乃斗くんはもっと食べた方がいいよ。細すぎる」 じっと見つめてたらそんなことを言われた。 「抱き心地悪い?」 昨日の夜を思い出してそんなことを言ったら、 高瀬さんはまるで漫画みたいに 頬張ってたそれを吹き出しそうになって前かがみになると、 慌てて口元を手のひらで覆った。 今度はその手のひら込みで高瀬さんを見つめて笑うと、 しばらくして現れた高瀬さんの表情は、 ばつの悪そうな、どこか困った顔をしていた。 「そういう意味じゃないよ」 そんなわかりやすい表情も可愛い。 へへへって笑って高瀬さんを見れば、 今度は気恥ずかしそうに笑って、視線を料理に逸らした。 そういうすべてがどこが上品で、そして穏やかだった。 それは昨日の夜、 ベッドの上であんなに激しくオレの身体を揺らしてた人と、 おんなじヒトとは思えないくらいに。 高瀬さんと出会ってもうまるっと2年になる。 一緒に暮らしだしてからは一か月。 日本に帰国してから3度目になる今年の春は、 鼻がむずむずして目と喉の奥が少しかゆい。 もともと体質的にアレルギーに敏感で弱っちぃから、 なるべくしてって感じだ。 哲至さんのご両親には本当によくしてもらったと思う。 だって、血のつながりもない、 存在すら知らなかったオレみたいなのを引き取ってくれて、 ・・・なんなら母さんの葬式や住んでたトコロを引き払うことや、 オレが帰国するための細かい手続きなんかの全てをしてくれて・・・ オレに居場所を作ってくれたから。 でも、申し訳ないけどやっぱり、その家の居心地は悪かった。 それまでは会ったことも、存在すらも知らなかった、 ぜんぜんつながりのない人たち。 なぜだかすごく、申し訳なくて後ろめたい、 薄暗いモヤモヤがずっとあったのだ。

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