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第12話 真乃斗

帰国してしばらくして、産まれて初めて会った 血のつながったオニイチャンは終始ニコやかで、オレとはぜんぜん似てなかった。 はじめましてと言って握手をして、 驚いたとか、 正直困惑してるとか、 そういったことはなんにも言わなくて、態度にも出さなくて、 ただ、弟がいたなんて嬉しいと言って笑った。 背丈もそこまで大きいわけではなく、線も細いのだけど、 なんていうか力強いヒトだった。 決して大きくはないその手のひらの感触の、 しばらく余韻が残っていた。 最初は大人だからそんな風に言っているのだろうと思っていたのだけど、 しばらく一緒にいれば、 哲至さんは本当にオレの存在を嬉しいって思ってくれてることがわかった。 終始、目じりが下がって口角が上がっているような表情をしてた。 こっちで話せるヒトは本当にいなくて、ちょっと寂しかったころ、 哲至さんに連れられて紹介されたのが高瀬さんだ。 哲至さんのオトウサンに買ってもらった携帯に、 高瀬さんの番号を登録したときをよく覚えてる。 ようやく、世間と繋がったって感じがした。 「なんか見られてるって思うと食べにくいんだけど」 食事のとき、高瀬さんを見ちゃうのはクセみたいなものだ。 医者なんてやってて、ちゃんと大人で、 明らかにかっこいいと呼ばれる姿かたちをした大人の男なのに、 食べる時にだけなんだか小動物みたいになる。 「高瀬さんが食べてる姿見るのが好きなんだもん」 可愛いから・・・とは言わないでおいた。 「俺も真乃斗くんが食べてる姿が好きだから、もっと食べなよ」 2年間、苦しみながら通った専門学校ではそれなりに友達ができたし、 バイトもしてたからそっちの仲間も出来て、 いまでは携帯には友達と呼べる何人かと、 知り合いって感じの何十人かの連絡先が増えた。 でもこの2年間で哲至さんの実家で食事をする以外に、 一緒に食事をした回数は高瀬さんが一番多い。 その次は哲至さん。 高瀬さんとはいまでは、食事以上のこともしている。 もっと食べなよと言った高瀬さんは 自分は食べないくせに、オレにだけケーキを頼む。 コーヒーを飲むのを禁止された高瀬さんは、 オレがケーキを食べてる間、おとなしくオレンジジュースを飲んだ。 ストローを口に含んだ、そういう姿もなんだか可愛い。 高瀬さんはちゃんとしてることだらけなのに 料理はぜんぜん出来なくて、気づけばコーヒーばかりを飲んでいて、 そんなところだけ抜けているのも逆にスマートだって思う。 それはつまり、 ちゃんとオレの仕事を・・・居場所を。 つくってくれてるってことのような気がしてる。

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