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第13話 真乃斗
母親は奔放なヒトだった。
オレの父親との結婚が、母親にとっては4回目の結婚だった。
オレの親父は優しいけど病気がちなヒトで、
オレが4歳の時に死別したらしい。
父親のことも父親が死んだときのことも、オレはよく覚えてはいないのだ。
そうして、母親はしばらく誰とも付き合うことはなかった。
けれど、たしか小学校に上がるころからまた、男ができた。
そうして、何人かが入れ替わり、
オレが9歳の時に付き合うことになった新しい彼氏がアメリカ人で
突然、母親は渡米を決めた。
必然的にオレは9歳から17歳まで、
一度も帰国することなく、ずっと向こうにいた。
5度目の結婚相手に選んだその外国人とは結局、3年で別れた。
それからも気づけばとっかえひっかえ、誰かしらと付き合ってはいたけど、
それ以降は結婚はしなかった。
母親はよく、オレの血のつながった父親の話しをしてくれた。
ぜんぶ良い話しばっかだった。
「思い出は良いことを振り返るためだけにあるのよ」と言って
その顔は本当に幸せそうだったのを覚えてる。
だからきっと、それは本当なのだろうと思ってる。
ここまで育ってきたのだから、
あの人なりの愛情が
・・・それが世間一般とはちがっていたとしても・・・
オレには注がれていたことはわかってる。
ただ、孤独が耐えられないヒトだったってだけ。
男がいない世界がダメだったのだ。
一度、母親が付き合ってた男に襲われかけたことがある。
たしかオレはまだ中学生だった。
びっくりするほど強引に、その男からオレを守ってくれた母親は強かった。
だから弱いヒトだったわけじゃない。
孤独が耐えられない、男好きの、子供を守れる強い母親だった。
そうして、そういう母親をオレはそれなりに好きだったし、
自分が不幸だなんて感じたことはたいして多くはない。
でも・・・だから。
さすがに母親が死んだときはどうしようかと思った。
その国で外国人であるオレが独り、
生活をしていくってのがどれほど大変なことかってことくらい、
ガキでもわかる。
父親だけでなく母までをも失って、
天涯孤独って言葉を、まさか実体験する日が来るなんて、
さすがに思ってもみなかった。
だからそんな状態の中で
一度も会ったことのない、
哲至さんのオトウサンがわざわざ来てくれたときは、
まったく会ったことのない、知らない人にも関わらず、
オレは明らかにホッとして、ちょっと泣きそうになった。
・・・泣かなかったけど。
帰国できたとき、
知り合いがほとんど独りもいないのに、どうしてだかホッと安堵した。
どこか「守ってもらえる」と感じていた。
なんの脈略もないのに。
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