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第14話 真乃斗

そんな哲至さんのオトウサンに、帰国後、 学校にでも通ったらどうかと言われて、オレはうなずくしかできなかった。 当時、することがなにもなかった。 というか、なにをしたらいいかわからなかったから、 そうやって「しなきゃならないこと」を作ってくれたことは ありがたかったのだと思う。 でももともと勉強は好きじゃないし、得意でもない。 だから2年だけ通えば済む専門学校を選んだ。 学校を決めて入学が決まったあとにオレはようやく、 血のつながったオニイチャンに初めて会ったのだった。 ーーー・・・ 「それ、どう?」 「ん?」 食べかけのレアチーズケーキを視線で指すと、 高瀬さんはたったいま頬張ったケーキが 美味しいかどうかと言うことを聞いているのだとわかった。 「ん。美味しい」 ・・・と。ずいぶん適当なことを言った。 本当はちょっと昔をなぜだか懐かしく思い出していて、 その味などよくわかっていなかったのだけど。 「高瀬さんも食べてみて」 フォークにすくって 高瀬さんの大きな魅力のひとつである、その紅い唇に近づけると、 高瀬さんはやっぱりどこか照れながら、それでも口を開けてくれた。 「ん。うまい」 「でしょ」 高瀬さんはウソ偽りない美味いって顔をするから、 その顔を見て妙に納得して、満足する。 なんとなく視線がその唇から離れなくなって、 高瀬さんは部屋に着いたら、 オレがキスをしてと言わなくてもしてくれるかな・・・と、 そうだったらいいなと、そんなことを思った。 ランチの後、 太陽の下をぶらぶらと歩くだけでぜいたくな気分になる。 おまけにそこには桜の木がいくつもあるのだから、 それはそれは気分がいい。 たとえまだ、桜の花実がまばらだとしても。 勝手に顔は上を向く。 上を向くからまた、気分が良くなる。 高瀬さんは散歩が好きだ。 医者なんてしてると運動不足になるのだと言って、 時間さえあれば外に出る。 それにつられるようにしてここ1か月はオレも外に出るから、 いまではオレも散歩が趣味みたいになっている。 「甘酒飲みたいな」 見上げる桜を見てなのか、お花見のことがチラついたのか、 ふっとあの、つぶつぶの触感を思い出す。 「お、いいね。売ってるかな」 「作れるかな」 「え?作るの?」 驚く高瀬さんに返事をせずに携帯を取り出して、 甘酒の作り方をググってみる。 「コメコウジってどこに売ってる?」 「さぁ?聞いたこともないけど」 「あれば意外と簡単かも」 「スーパー寄って材料、あるか見てみる?」 「うん」 今日の午後、やることが出来たことが嬉しくて、 オレはテンションが上がった。

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