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第15話 真乃斗
目を覚めたときほとんどいつも、
ベッドの中に高瀬さんがいたことはない。
最初のころ
・・・それはつまり、
この部屋でイカガワシイ行為にふけったあと、
泊まったりしてた頃から・・・
は慌てて飛び起きて、
高瀬さんを探すようにしてベッドを出た。
そうしてほとんどいつも、
リビングでコーヒーを飲んでいる高瀬さんを見つける。
ときには新聞を読んでいたり本を読んでいたりすることもある。
オレの顔を見ると、いつもふわりと笑う。
それはまるで、ずっとここでオレを待ってたって顔。
遅れてやってきたのはオレのほうで、
高瀬さんのほうが正しくそこにいたような、そんな顔をする。
実はオレはちょっとだけその顔が好きじゃない。
だってベッドの中で待っててくれていたらいいのにって思うから。
もしくは一緒にオレを起こしてくれたらいい。
そしたらここへやってくるまでのたったの数分間の、
あの虚しいような寂しいような、
置いて行かれたようなどこか不安な気持ちを
きっと感じなくてすむはずだからだ。
ーーおはよう。よく眠ってたねーー
でも、よく考えて見ればオレがおかしいってことにようやく気付く。
この部屋は高瀬さんの部屋なのだ。
だからこの部屋から彼がいなくなるはずんがない。
いなくなるとしたらそれは、
オレのほうだったことをやっと気づいて
どこか安心する。
だって少なくともこの場所で、オレは置いて行かれることはない。
オレが置いていくのだ。
いつかこの部屋を出て行くときに。
ーーー・・・
「じゃあ行ってくるね」
「ん。行ってらっしゃい」
リビングのドアを開けて振り返る。
「・・高瀬さんも来る?」
そう言ってしまって少しだけ後悔する。
でもそう言うのが正しいような気がして、もう言っていた。
そうしたら高瀬さんはふわっと笑う。
それはよく知ってる高瀬さんらしい顔。
すごく優しい、オレを想いやっている顔だ。
「大丈夫」
言ってみてわかった。
オレはきっと
高瀬さんはそう言うだろうと思って、言っているんだってこと。
・・やっぱり言わなきゃよかった。
「なるべく早く帰る」
自分だけが少し気まずくてそう言った。
「真乃斗くん」
すると、ソファに座ってた高瀬さんは
わざわざ立ち上がってこっちへ来た。
キスをされるのだと思って身体が勝手に用意する。
「ゆっくりしておいで。でも夕飯は一緒に食べよう」
「ん。わかった」
「なにか買っておくよ。リクエストあれば知らせて」
「うん」
高瀬さんはやっぱり微笑んでいる。
オレはもう一度、
行ってきますと言ってその扉の向こう側へ足を踏み出すと、
もう振り返ることはない。
高瀬さんはキスをしてくれなかった。
くつを履いて玄関を出ると、
けれどそんなことはもう忘れてしまっていた。
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