18 / 101

第18話 真乃斗

「ごめんね」 哲至さんが謝るとき、それはいつも本当に申し訳ないって感じで謝る。 だからオレは何も言えない。 思わず大丈夫って必死で笑って言ってしまう。 本当はとても残念でも。 「ううん。今日も楽しかった」 「また観に行こうね」 「うん」 お昼を食べると哲至さんは、このあと予定があると言った。 きっと、オレがわかりやすく、 気持ちが表情に出してしまっていたのだろう。 哲至さんは黙ってしまったオレに、 とても申し訳ないって顔して謝ったのだった。 「駅まで一緒に行く?」 「ううん。気持ちがいいからもう少しブラブラする」 「ん。あっち側、まだ桜が咲いてるかも」 「ぅん・・・そうかもね。行ってみる」 笑顔で手を振ると、 哲至さんが背を向けて歩き出すのを待たずに背を向ける。 一度も振り返らずにずんずん歩いて、 桜の木が植わっている場所に来ると もうずいぶん花びらは散ってしまっていて、 緑の小さな葉っぱが見えた。 無意識に大きく息を吐く。 ほとんど残っていないピンクの花びらと、 これから大きくなるんだろう若草色した葉っぱを、 できるだけゆっくりと眺める。 桜は葉っぱも、なんだか可愛くてキレイだなと思った。 独りで観てるのが寂しいと思って、 高瀬さんはなにをしてるだろうと思った。 哲至さんが言っていた「予定」はデートだ。 そんなものは顔を見ればわかる。 哲至さんには恋人がいる。 男の。 もう5年も前から一緒に暮らしているらしい。 付き合いはもっと古いそうだ。 その話を聞いたときも今日、待ち合わせたあのカフェだった。 そのとき、実家に帰らないのはそれが原因だと言って笑った。 「それ」というのは男の恋人がいることではなくて、 男を好きになる男っていう意味だ。 『俺は男が好きなんだ』 と、 それはまるでとてつもない大罪を犯してしまったのだというような、 一度、すべてを失ったことがあるっていう空気をまといながら、 けれども哲至さんは笑顔でそう言った。 『男が好き・・・』 きっと、一瞬だけ頭ん中がバラバラになってしまって、 オウム返ししたオレに哲至さんはとても短く 『ん」 とだけ答えて、そうしてそれだけで、 このヒトがオレに伝えたいことが十分伝わったって感じた。 つまりは哲至さんが実家に帰らない理由が ・・・帰れない理由かもしれない・・・ 「男が好きだから」ということなんだということ。 そして、だからオレとは暮らせないのだということ。 そういうすべてをわかって欲しいのだと言っているのだということ。 そういうことが全部、伝わった瞬間だった。

ともだちにシェアしよう!