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第19話 真乃斗

あの日。 二度目に哲至さんに会った日も午前中で、 あのカフェは気持ちのいいコーヒーの香りが漂っていた。 『そうなんだ』 それはきっと、少し浮かれてそう言った。 『そうなんだよ』 すると今度は哲至さんがオウム返しで返事をした。 会って二度目でため口なのは、 そうして欲しいと哲至さんに言われたから。 どこか少し親近感がわいたところにそんなことを知ってしまって、 明らかに心が躍っていた理由は、 男の自分がこのヒトの、 そういう対象になりうる可能性があるってことだと思ったから。 このとき、 自分がこのヒトに妙な感覚で惹かれていることを自覚していたし、 だからこれは、オレたちがそうなる運命なのだとすら、思った。 「今度、哲至さん家に行ってもいい?」 ドキドキしながらそう言ったのは、 明らかにそういうコトを意識しながら言っていた。 兄弟とはいえ、 ずっと離れてたこのヒトと自分は家族だなんて思えなかったし、 それはきっと、このヒトだってそうだろう。 「もちろん来てもいいよ。ただ俺は独りで暮らしてはいないんだ」 「え?」 「恋人と暮らしてる」 オレの淡い、芽吹いたばかりのその想いはあっという間に、 短いその一言で砕け散ってしまった。 「・・・恋人はどんな人?」 「可愛いヒト」 仕方がないからそんなことを聞いたら、 一瞬の迷いも隙間もなく、そんな風に返されてしまって オレはまた、大きくショックを受ける。 何でもないって顔をして、そんな風に恋人のことを話すだなんて。 でもその瞬間、 オレはもっと哲至さんを好きになってしまったのだった。 「ごめんね、ホントなら俺が真乃斗くんのそばに居るべきなんだけど」 突然、こんな状態になってしまったのはオレだけじゃない。 哲至さんだって同じだってことを改めて思う。 「実家にはなかなか、、、もう自分の居場所はないと思ってるから」 きっと重い話しって部類に入るそんな話しを、 哲至さんはもうすっかり過ぎたことだっていう、涼しい顔をして話す。 「わかってはもらえなかったってこと?」 「こういうことは、わかるとかわからないってことじゃないからね」 確かにそうかもしれないと思った。 わかるとかわからないではなく、 受け入れられるかそうじゃないかってことだ。 オレは男で、だけどいまのところ、男と付き合ったことはない。 向こうにいる間、付き合った相手はみんな女の子だった。 それなのにどうして、このヒトにはこんな気持ちになるのだろう。 「ああでも、あの人たちはとてもいい人たちだから安心して」 少なくともオトウサンは哲至さんと血の繋がりがある。 だから「あの人たち」という表現に少しだけ、哀しいと思った。 そして、哲至さんが伝えたかった最も大切なことは、 「恋人がいるから一緒には暮らせない」ということなのだとわかった。

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