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第22話 高瀬

「はじめまして」とお辞儀をした真乃斗くんに、 おそらくすでに恋をしていた。 ほとんど信じられないくらいに。 けれどもそれは、あまり好ましいことのようには思えなかった。 父親違いの年の離れた、親友のオトウトという事実は、 簡単に恋愛に発展させるだけの軽やかさはない。 なにより、俺も哲至も男が好きだけれど、真乃斗くんは違うだろう。 そういうことは、血ではないのだ。 哲至のオトウトという立場の真乃斗くんに、 自分はいったい、なにができるかはわからなかった。 ただ、もし彼の孤独を少しでも和らげられるなら、 メッセージのやり取りくらいはいいだろうと思ったのだった。 会うのに2カ月が必要だったのは、 そういう自分の中の理由があった。 その日、学校の様子を聞けば、 真乃斗くんは大きなため息をしながら、 自分は恐ろしくパソコンには向いていないと 本当にイヤそうに・・・それはまるで恐怖だという風に・・・ 絶望的に言うので、 それならばなぜそんな学校を選んだのかを聞くと、 彼は少し悩んで 「神様のオボシメシ」 と、ちょっぴり唇を尖らせてとても不満そうに、 そして恥ずかしそうに言った。 その言い方はとても素直でわけがわからなくて、 やはり俺は好意しか持てない。 「それはどういう意味?」 もう自分がこの男に、明らかにそう言う意味で 気持ちがあることを自覚しながら聞いてみる。 「それはつまり・・・」 聞けば、 もともと通う予定ではなかった専門学校を選ぶにあたり、 やりたいことも目指す夢のようなものも、 なにも思いつかなった真乃斗くんは、 哲至のオトウサンが持って来た資料の学校をすべてメモに書いて、 あみだくじで決めたのだそうだ。 「もともと勉強は好きじゃないし、どれがいいかもわかんなくて」 自分の進路をそんな風に決めたヒトには初めて出会った。 ヒトによっては呆れられるであろうそんな決め方に、 俺はやはり好意しか感じなく、なんだか微笑ましく笑った。 二度目に会った真乃斗くんは最初から俺にため口で、 俺はそれにも好意しか持てない。 それはきっと、メッセージの延長の口調だった。 口を尖らせる仕草やかもし出す空気感のようなもの、 真乃斗くんという存在をつくりだしている全ての要素に、 俺は勝手に自然と惹きつけられてしまう。 目の前の若い男をどうしたって、 可愛いと思う気持ちを誤魔化せないでいるのだった。

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