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第25話 高瀬

翌日のちょうど昼休みごろ、病院に真乃斗くんがやってきた。 そんなことは初めてで、驚いて嬉しかった。 「どうしたの?」 顔がにやけている自分に気づいている。 「甘酒持って来た」 「甘酒?」 「ん。哲至さんに」 そうして現実はそこまで甘くはない。 明らかに落ち込む自分を、真乃斗くんに見せないようにして笑った。 「喜んでた?」 「会えなかった」 手に持った紙袋を上に上げて俺を見る。 「なるほど。後で渡しておくよ」 「ありがと」 俺のためではないその紙袋を受け取って、 丁寧に自分の机の上に置いた。 決して大きくはない紙袋の存在がやたらと大きく感じる。 こんな空気感はどこか異様で、息苦しい。 「お昼は?」 「まだ」 「一緒に食べる?」 「うん」 それでも真乃斗くんを見つめてしまえば、 その息苦しさに彼の存在があるということの嬉しさが混ざって、 どこか救われた気持ちになってしまう。 それに、病院で真乃斗くんと二人でお昼を食べることも初めてだ。 もう一度、チラリと紙袋を見てから小さくため息をつくと一瞬、目を閉じた。 そうして、目を開けるとあとは真乃斗くんだけを見つめる。 部屋の中央辺りにつっ立ったまま、 自分はずいぶんみなれたこの部屋のどこかしらを 物珍しそうに見ている真乃斗くんに近づくと、 許可を得ずに唇を塞いだ。 「なにが食べたい?」 「なにが食べれるの?」 「ん~、、、そうだねぇ」 白衣のままでその細い身体を抱きしめると、 真乃斗くんも背中に腕を回して、 そのクリっとする瞳でこちらを見上げた。 真乃斗くんが哲至にそういう意味で「惚れている」ことを知ったのは、 彼と初めて出会ったその年のクリスマスイブの夜だ。 真乃斗くんの19歳の誕生日の夜、 俺と真乃斗くん、そして哲至と哲至の恋人の4人で食事をしようと ・・・それは真乃斗くんの誕生日パーティと言う意味で・・・ まさかの哲至が提案したのだった。 ヒトと集まることが好きではない哲至が、 そんなことを言いだすことにびっくりした。 真乃斗くんが哲至の実家で 肩身の狭い思いをしているのを知っていて、 それでも自分がしてあげられることが あまりに少ないからという理由からだった。 それまで俺が真乃斗くんとときどき会っていることを知っていたし、 おまけに決まったパートナーがいないことも知っていたことで、 哲至は俺にも声をかけたのだろう。 このとき、 自分の真乃斗くんへの想いについては自覚してはいても、 だからといって、彼と自分からどうこうしようと 思っていたわけではなかった。 ただときどき会って、その存在を確かめられれば十分だったのだ。

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