27 / 101

第27話 高瀬

真乃斗くんがそばにいる、春はあっという間に過ぎ去っていく。 もともと薄着の真乃斗くんは、 4月になったばかりだというのに、ここ最近ではもうずっと半そでを着ている。 あれから真乃斗くんは本当にバイトを探すといって、 気が向いてはパソコンとにらめっこをしてる。 いくつかステッカーが貼ってあるそのノートパソコンは、 2年前、入学祝いとしてオトウサンに買ってもらったものではなく、 哲至が専門学校の卒業祝いとして買ってあげた新しいパソコンだ。 「コーヒー淹れようか?」 わかりやすく、目星がなさそうな顔つきの真乃斗くんにそう言った。 真乃斗くんはこちらを見ることもなく、 声を出さずに頷くと、大きなため息をつく。 そんな姿を微笑ましく見つめて、キッチンへ向かった。 別段予定のない日曜の、もうすぐお昼になる時間。 今日のような時間の過ごし方は自分にとってとても心地がいい。 「高瀬さんはなんで医者になったの?」 キッチンにいる俺に向かって聴こえてくる張りのあるその声に、 心地良い香りを振りまくコーヒーを 真乃斗くん専用のマグカップに淹れながらどこか苦笑する。 なぜだかこの質問は、本当によくされてきたのだ。 「親父が開業医だから」 ソファにいる彼に聞こえるように、俺も少しだけ大きな声でそう言った。 「どういうこと?」 「親が医者で、あまりにそれが身近すぎて、 特に何も考えずに医者になってたってこと」 二人分のマグカップをもって、 テーブルの上に真乃斗くんのマグカップだけを置く。 そうしてそのまま彼の隣に座った。 「お父さんも心療内科医?」 「いや。哲至と同じ内科医」 「じゃあなんで高瀬さんは心療内科なの?」 「心理学専攻してたし、もともと人と話すことが好きだったからかな」 ふ~ん、、、と、たいして興味がなさそうにそう言って、 マグカップに手をのばすと、淹れたてのアツい湯気に息を吹きかける。 真乃斗くんの長い睫毛がひとつ、パサリと動いて、 コクリと喉が動いた。 「なにやろうかなぁ」 「まぁ急がず決めれば?」 「高瀬さんはホント、オレを甘やかしすぎ」 「そう?」 「そう」 相変わらずこちらを向かない真乃斗くんにそう言われて、 どこかむずがゆい気分になる。 こんな会話がとても心地がいいのだった。

ともだちにシェアしよう!