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第30話 高瀬

そこから、 どんな花が好きかと真乃斗くんが話題を振って、 おそらく彼もずいぶん飲んでいることがわかる。 片手にグラスを傾けながら気持ちよさそうに 「オレの母親はねぇ・・・」と話し出した真乃斗くんを見つめて、 真乃斗くんにとって母親の存在がとても大きかった ・・・もしかしたらいまも・・・ のだろうと思った。 「お母さんが好き?」 「ふつう」 少しの間を開けることなく、 「ふ」と「つ」と「う」の間をいちいち区切るようにして言う真乃斗くんが、 とても眩しく映る。 こんなに素直に育ってきたのはきっと、 彼の言う「5回も結婚した、男がころころ変わる母親」が、 真乃斗くんにとって素晴らしい女性だったからに違いない。 「高瀬さんのお母さんはどの花が好き?」 「薔薇」 「へぇ」 「とくにミニ薔薇が好きだった」 花の好きだった母親に花を買ったことがない理由は、 母に花を買うのは俺の役目だと言って、 それを息子の俺に許さなかった父のせいだ。 「それかっこいい」 「そうかな。 でも反抗して折り紙でつくった花を上げたことがある」 「それもかっこいい」 「6歳のときだよ」 「年齢関係ない」 酔っぱらった真乃斗くんが、いつにも増して潤みを帯びた、 キラキラした目で俺を見てそんなことを言う。 だからそのまま顔を近づけると、 いつもより赤みが帯びる濡れた唇を塞いだ。 唇はいつもと変わらず柔らかい。 けれど、いつもよりずっとアツくて色っぽく感じる。 冷たい酒を飲んでいるはずなのに。 唇を離さないようにしながらグラスを置くと、 抵抗しない真乃斗くんの唇を開かせて、どちらともなく舌が絡む。 抵抗されずに・・・いや、もしかしたら抵抗されたとしても・・・ いい気になった、 全身に酒が浸かったカラダが次にすることは、 考えてするものではなく、勝手にそうなってしまうものだ。 真乃斗くんの手元のグラスをテーブルに置くと、 そのままソファの上に押し倒した。 重ねた唇をそのままで、 下半身を押し付けるようにしたまま Tシャツの裾から手のひらを忍ばせると、 真乃斗くんの両腕は背中に回って、自分から細い脚を開く。 欲望に忠実な事は、彼の良いところだ。 いまは春だけれど、 真乃斗くんはいつだって夏の匂いがする。 「っはぁ・・・そういえば」 「え?」 Tシャツを脱がしにかかってる俺に、 真乃斗くんがトロリとした瞳でこちらを見た。

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