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第32話 真乃斗

ーーー・・・ 携帯のアラームが鳴っていることに気づいて目が覚める。 隣にいたはずの高瀬さんがもういないことを、 そちらに視線をやらずともわかってる状態でアラームを止めた。 まだどこか頭がぼんやりしてる状態で、 チラリと視線だけで、隣にヒト一人分の空間があることを確かめると、 毎朝のその景色にいまだ慣れずにため息に近い息が漏れる。 腕だけで、本当なら着て寝るはずのTシャツを探した。 Tシャツだけでなく、本当なら着て寝るはずの全てのモノたちを、 昨晩も高瀬さんが脱がせた。 それはもちろん、エッチなコトをするためだ。 あんな顔してあんな優しい声をしているくせに、 裸で抱き合うときの高瀬さんはなんだかすごい。 いつも圧倒されてしまって、コトが終われば気づけば裸で寝てしまっている。 きっと、いろいろな後処理も、いつだって高瀬さんがしてくれている。 ようやく探し当てた、 首がすっかりくたびれているダボダボのそれを頭からすっぽりかぶると、 のっそりと布団から這い出た。 「おはよう」 「んはよぅ」 リビングはすでにコーヒーの香りが漂って、 高瀬さんとこの家はもう、一日をスタートさせていた。 昨日の夜の余韻を微塵も感じさせないで。 「コーヒー飲む?」 「うん。高瀬さんは目玉焼き食べる?」 「ん。じゃあお願い」 すでにパンを焼いていた高瀬さんのために、フライパンを出す。 この家で高瀬さんがキッチンに立つときは、 コーヒーを淹れるときとトースターにパンを入れるときくらいだ。 男子厨房に入るべからずで育った高瀬さんは、 見事に料理をすることに関心がなく、自分でご飯すら炊かない。 だから必然的に、家事全般はオレがやっている。 花屋のバイトがはじまってもう1か月がたつけど、それはかわらない。 オレはそれがなんだか嬉しかった。 オレから家事を取りあげずにいてくれた高瀬さんにホッとしている。 「どーぞ」 「ん。ありがと」 二人分の目玉焼きを焼いて、ひとつを高瀬さんの目の前に置いた。 目玉焼きだけだとお皿が寂しいから、ベーコンも焼いてあげた。 お皿の上が一気に豪華になった気がする。 「今日は少し遅くなるよ」 「そうなの?」 オレはバイトは週に3回だけしかない。 バイトがある日は今日のように、携帯のアラームをかけて目を覚まして、 高瀬さんと一緒にこの部屋を出るのだ。 そうして、オレのバイトがあってもなくても、 高瀬さんはほとんどいつも同じ時間に帰ってくる。 医者なのに、夜勤もないから夜にこの家にいなかったこともない。 だからこんなことはとても稀だった。 「ん。ちょっと友達と飲んでくる」 「そうなんだ」 「誘われて断れなくてさ。夕飯は外で食べるから」 「ん。わかった」 高瀬さんにだって友達はいる。 そんなのは当然だった。 なんならオレより多いはずだ。 医者の友達か、それとも男で男を好きな友達がきっと、たくさんいる。 「そこまで遅くはならないと思うけど、先に寝ちゃってもいいからね」 「わかった」 オレはきっと、 今夜の夕飯はマックかケンタになるなと思いながら 目玉焼きの黄身をつぶす。 トロリとした黄色い液体が、白身の上に広がっていった。

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