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第33話 真乃斗

リビングのドアを開けると、部屋の電気をつける。 朝に言っていた通り、高瀬さんの部屋に高瀬さんの姿はなかった。 買ってきたケンタッキーの袋をテーブルに置いて、 鞄を無造作に置くと、手を洗って冷蔵庫を開けて、缶ビールを取り出す。 お酒が飲めるようになってから ・・・ってのはウソで、もうずいぶん前から飲んでるんだけど、 一応、高瀬さんには言ってなかったせいで、高瀬さんはしょっちゅう 未成年のオレにコーラを買って来ていたから・・・ コーラよりもビールを飲むことが増えた。 明日はバイトはないし、 そう思うと心置きなく飲んでいいって自分で自分に思った。 キッチンの脇のテーブルに腰かけて、ビールを一気にゴクゴクっと飲む。 もうすぐ夏になるこの時期は、汗っかきの自分としてはもう暑くてたまらない。 部屋中にケンタ独特の美味しそうな匂いが充満して、 テーブルに置いたビニール袋から紙のパックを取り出すと そのままひとつ、鶏肉を口に運んだ。 ・・・それにしても。 「やっぱ買いすぎたよな」 一人分なら3つもあればよかったのに、 気づいたときには10ピースパックを頼んでしまっていたのだ。 独りで食べることをわかっていて、 頭の中には高瀬さんが浮かんでいた。 なんとなく、高瀬さんの分も買ってしまった自分に、 冷蔵庫に入れておけば明日でもきっと食べれるだろうと独りうなずいて、 もう一口頬張った。 ズボンから携帯を取り出すと、 画面に表示された時間は19時を回ったところだった。 そういえば、この部屋に暮らすようになってから 夜に独りの時間は初めてだ。 ビールを飲み干すと、油でギトギトの指を知らんふりで ビニールごとケンタの箱をソファの前のテーブルへ置く。 そうして冷蔵庫から新しいビールを2本、取り出した。 アメリカにいたころ、 母さんはしょっちゅう、男に会いに行くために夜にも家を空けた。 独りの夜は決まってテレビをつけて、 リモコンを手に持って番組をカチャカチャと変える。 番組の内容よりも、 テレビCMのタイミングとそのカチャカチャが合うかどうかの ゲームをしてた感じだった。 仕事終わり、オレを置いて男に会いに行く母親は、 けれども必ず、オレの寝る前には家に帰って、 言われた通りしっかり戸締りをしてたオレを褒めてからおやすみを言った。 なんだかそんなときを思い出しながら、テレビをつける。 いまはもうオトナだから、リモコンをカチャカチャしたりはしない。 いまの自分はあのころとは違うのだった。

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