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第36話 真乃斗
スマホを無造作にテーブルに戻すと、
まるでそれを合図にするみたいに瞼が重くなってうとうとする。
こんな夜は珍しい。
それは、高瀬さんの部屋にいるのに高瀬さんがいない夜。
いま、オレのいない世界で酒を飲んでる高瀬さんを想う。
きっと、オレのことを想ってる。
オレがそばにいないのに。
高瀬さんはそういうヒトなのだ。
それはもう、まぎれもなくわかってしまう「事実」だった。
だからそんな高瀬さんが帰ってきたとき、
きっとどこか心配して、けれどもホッとして、
嬉しそうに「ただいま」を言うんだろう、高瀬さんのそんな顔を見て見たいし、
オレはそういう高瀬さんに笑いながら「おかえり」を言いたいとも思う。
それなのに、一度やってきたその眠気にオレはどうしても勝てない。
瞼が完全に落ちて、世界が暗くなる。
起きていたいと思う気持ちは鮮明なのに、瞼がどうしても開かない。
身体がいうことを聞かないのだ。
濡れた髪をそのままで寝ることを、高瀬さんはいつも、
風邪をひくからちゃんと乾かすように言う。
それはとても、オレを愛しいという口調で。
いま、濡れたままの髪で、おまけに上半身ハダカの状態で
こんなところで寝てしまいそうになってることを知ったなら、
高瀬さんは心配して優しく怒るんだろうなと思いながらも、
オレはもう目を開けられない。
トロトロとゆっくり・・・そのまま浅い眠りについてしまった。
ーーー・・・
どれくらい寝ていたのか、身体が寒くて自然と頭だけが起きる。
寝ぼけた頭のまま、目を閉じたままで
タオルケットを身体に巻き付けようともぞもぞ動いて、
その匂いに気づく。
そうして、いまだ寝ぼけたままで眠ってしまう前のすべてを思い出すと、
そのままの姿勢で決して軽くはない瞼を無理やりにパチパチした。
寒くてタオルケットを巻き付けながら起き上がると、
無意識に見慣れたその部屋を首だけ回して見渡す。
部屋はしんとしてる。
なんていうか、テーブルのその小さな箱から溢れる匂いによって、
かろうじて生気を保っているような、そんな空間。
寝る前の全てを思い出して、
いまだに高瀬さんが帰って来ていないことをわかると、
オレは急に心細くなった。
心の中だけで慌てると、携帯を引き寄せて画面をタップする。
きっと帰ってくるだろうと思っていた時間よりも、
もうずいぶんとたっていて、不安はさらに膨張する。
飲みかけの缶ビールに視線が行く。
なんだかもう、
この世界のすべてから取り残されちゃったみたいな気分が襲って、
急に怖くなった。
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