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第37話 真乃斗

高瀬さんのいない高瀬さん部屋はこんなに寂しかったっけ・・・ と思いながら部屋を見渡すと、 この部屋はなんだかまったく知らない部屋みたいに感じてくる。 この部屋に暮らして、 いままでにだってこの部屋に独りでいたことはもちろんある。 オレはずっと働いたりしていなかったのだから。 でもこんな時間に、こんな・・・夜の・・・時間には、 いつだって高瀬さんが近くでコーヒーを飲みながら、 もしくは新聞や本や、パソコンを打ちながらそばに居て、 オレはそれを視界に入れもせずに、けれどもずっと その存在を感じながらこの部屋にいたのだった。 慌ててテレビをつける。 それはオトが流れて、実際そのオトが耳に届いているのに、 この部屋はやっぱりしんとしている。 やっぱりここはオレの知らない部屋みたいに。 でも実際、本当は知らない部屋だ。 本当は自分がくつろいでいい場所じゃない。 もし、この部屋でオレの場所があるとしたらきっと、 高瀬さんがくれたこのタオルケットと、 いまでは奥にしまった生成り色したあの、あったかい毛布の上だけだろう。 手元の携帯をタップするとまた、 哲至さんとのメッセージのやり取りをしてるその画面を開く。 いま電話をして、もし、手が空いていればきっと、 哲至さんはオレの電話に出てくれる。 本当はオレと同じで、電話が好きではないのに。 もし、自分が会いたいとメッセージをしたら、 哲至さんは絶対に会ってくれるだろう。 それはいままで絶対にそうだった。 どれだけ忙しくてても必ず、オレのために時間を作る。 すぐにはムリでも近いどこかで必ず、会うよう手配してくれた。 でもそれは、オレが血のつながるオトウトだからだ。 そうわかってしまっているオレは、 どこかやましい気持ちを抱えて「会いたい」と言うのは どうしても出来ない。 そういう意味で好きになってもらえる可能性はゼロなのだから、 もはや何をしたっていいともとれるのに、 だからこそ、なにもできない。 せめて嫌われたくはないのだろう。 嫌われなかったからと言って、この気持ちが救われるわけじゃないのに。 携帯を放り出してもう一度ソファに寝転ぶ。 眠りたくて目を閉じた。 眠ってしまうのではなく、眠りたいと思って目を閉じるのは とても珍しいことだ。 目を閉じると突然、母さんがいなくなってしまった日を思い出す。 あの日も眠りたくて目を閉じていたから。 そうしてその希望通りにオレの身体はまた、 よく知るその暗い世界に引きづり込まれる。 視界は暗いはずなのに、かすかになにかが見えた気がする。 それはもしかしたらこことは別の、 異空間に繋がる入り口にも思えた。 それはどこか恐怖なのに、どこか安堵もするのだった。

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