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第38話 真乃斗

無意識に高瀬さんの存在を、 周りの空気の気配の違いを、オレのどこかが察知して目を開ける。 視線の先にあったのは高瀬さんの優しい表情で、 それを見て どこか心配して、けれどもホッとして、 嬉しそうに「おかえりなさい」・・・と言ったのは、オレの方だった。 「ただいま。上、着てないの?」 「・・・着るのを忘れて寝ちゃった」 まるでタオルケットにうずくまるようにして 小さくなってるオレの隣に座ると、 高瀬さんは遅くなってごめんと言って謝った。 それは本当に申し訳なさそうな声だった。 「もう少し早く帰りたかったんだけどなかなか出れなくて」 謝った高瀬さんはリモコンを持つとテレビの電源を切る。 ふわりとその、チキンの匂いと外の匂いが鼻について、 なんとなく、高瀬さんの左手首の腕時計が目に入った。 謝る必要なんてないと言おうとして、オレはそれを言うのを止めた。 だって、もう少し早く帰ってきてくれると勝手に思っていたからだ。 小さく丸まってた身体をもっと小さくするようにして、 「寒い」 ・・・と、高瀬さんをまるで睨むように ・・・もしかしたらすがるようにだったかもしれない・・・ 見つめて、タオルケットを手繰り寄せるようにしてギュっとすると、 そんなことを言った。 高瀬さんはふわりと笑う。 笑いながら、眉尻が下がっているのがわかっていた。 なにも言わずにソファの上をすべるようにしてオレのほうに近づくと、 タオルケットごと、まるっとオレをぎゅうっとした。 「くさい」 明らかにホッとして嬉しいのに、今度はそんなことを言う。 「チキンの匂い?」 「違うよ」 なぜかムキになった。 だって、オレの言ってる「くさい」の意味を、 本当は高瀬さんだってわかっていたはずだからだ。 「飲み屋に行ってきましたって匂い」 「だって飲み屋に行ってきたんだもん」 少し酔ってる高瀬さんは、なんだか言い方が可愛くて、 それもどこか腹が立つ。 「楽しかった?」 明らかにふてくされてそう言った。 「まぁね。でも真乃斗くんに会いたかったよ」 それはきっと本当だろうと思う。 だって、高瀬さんだから。 そうして、そう言われてようやく少し気分が落ち着く。 「真乃斗くんのことを考えてた」 「知ってる」 「ん。遅くなってごめん」 いつもの高瀬さんじゃない、外の匂いのする、 でも、やっぱりそれは高瀬さんで、 オレは抱きしめ返したい気分になる。 でも身体のぜんぶがタオルケットの中にあって、それは出来ない。 だからだた黙って、外の匂いのする高瀬さんを感じた。

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