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第39話 真乃斗

「くさいから風呂に入ってくるよ」 抱きしめられたままで高瀬さんの顔が見えなくて、 身動きできないその姿勢のままで言われて、オレは黙ったままだった。 なんというか、なんて返事をしたらいいのか言葉が思いつかないのだ。 それはまるで頭ん中に真っ白い、モヤモヤがかかってしまったみたいに。 「上着を着てベッドに行ってたら?」 言われた言葉の内容を理解しているのに、なんとなくオレは黙ってる。 やっぱり頭ん中がモヤモヤして、なにも考えられないって感じだ。 イヤな感じでも、良い感じでもない。 それはまるで、 抱きしめられた全身が、 タオルケット越しに高瀬さんのお酒の一部を吸い取って、 瞬時にオレも一緒に酔っぱらってしまったように感じる、妙なカンカクだった。 すると、高瀬さんが強く抱いてた腕を少し緩めてオレをじっと見るから、 めずらしく少し髪が乱れて、 酒と飲み屋の匂いのする、なんならケンタの匂いすらする高瀬さんの、 くさいくせにそんなときでも男前なその顔を、 頭ん中だけが酔っぱらってクラリとして、動きがストップしてしまった様子で じっと見つめ返した。 「それとも一緒にお風呂に入る?」 オレはまだ、黙ってる。 自分の頭ん中がわからないのだ。 「寒くて冷えちゃったでしょ」 ・・・寒くて冷えちゃった・・・から。 「ね。そうしよう。もっかいあったまろう。 一緒にお風呂いこう」 高瀬さんはオレをもっとぎゅうっとして離さないままで、 自分の頭をオレの胸のトコ辺りに埋めるみたいに ・・・それはなんだか駄々っ子みたいに・・・ グリグリしながらそう言う。 「ちょっとやめてよ」 と言いながらも、そんな高瀬さんは初めてだから、 オレはなんだかおかしくなって笑ってしまう。 すると高瀬さんはもっとグリグリして、高瀬さんも笑った。 「ね。そうしよう真乃斗くん」 そうして今度は上目遣いでオレを見て、もう一度「ね」と言った。 「わかったよ。一緒に入ってあげる」 高瀬さんは満足そうに笑って、 背中に回ってた両方の手のひらでオレのほっぺをムニムニ揉むようにしてから、 そのまま髪まで撫でると、オレの全身をぎゅうーーーっとした。 「ごめんね」 また謝るから、オレは無言のまま、 タオルケットごと自分の全体重を高瀬さんへ預けた。 自分で自分を少しも支えていなかった。 「遅くなってごめん」 返事はしなかった。 すると、高瀬さんはキスをする。 お酒とチキンと外の香りが漂う中で、 オレはワンテンポ遅れて、瞼を閉じた。 相変わらずオレの腕はタオルケットの中にあって、 くさい匂いの高瀬さんを抱きしめ返すことは出来なかったけれど、 頭ん中だけでは高瀬さんのそのアツい身体をぎゅっと 抱きしめ返していた。 そういうオレの空気を、きっと、高瀬さんは知っていると思った。

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