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第41話 高瀬
「はぁ~・・生き返る」
幸せそうにそう言った真乃斗くんの言葉は、
まるでいまの自分の気持ちを代弁しているかのように感じる。
エアコンがあって良かったと思った。
無防備にTシャツの裾を持ち上げて、
パタパタとしてる真乃斗くんを眺める。
薄い腹が見え隠れして、それはまるで、
無邪気に俺を誘っているのかと勘違いしたくなるほどに
感情の刺激を誘った。
「先にお風呂行ってきちゃったら?汗かいたでしょ」
まるで紳士的にそう言ったのは、
自分の理性を保つためでもあった。
「高瀬さんは?もう入った・・よね」
「ん。もう入った」
きっと、いま俺が着ている服を見て、真乃斗くんはそう判断する。
帰って来て早々、
真乃斗くんのタオルケットに勝手に身を包んで、どこかホッとしたあと、
すぐに風呂に入った。
ソファの上に、そのタオルケットを丁寧にたたんでから。
「腹減ってない?」
真乃斗くんが俺の腹事情を気にしてくれるのは嬉しい。
「減ってるけど待てるよ」
決して義務ではないけれど、
バイトがあってもなくても、
いまもすべての料理は真乃斗くんがしてくれる。
俺はいまだに、ラーメンを煮ることすら出来ない。
「じゃ入ってきちゃおっかな」
「ん。ごゆっくり」
真乃斗くんがこの部屋で暮らす前、しばらく恋人はいなかった。
といっても、
恋人がいないことと抱き合う男がいないことは、イコールにはならないが。
恋人がいない間の俺の食事はほぼ100%外食だ。
特定のパートナーがいるときは、
彼らが食事を作ってくれることが多かった。
・・・男と付き合うそっち側の男ってのは、料理が上手いヤツが多いのだ・・・
キッチンに揃ってるフライパンや鍋やお皿なんかのほとんどは、
もらいものか、元カレたちがそのまま置いていったものたちだ。
真乃斗くんは知らないと思うが、
実際、この部屋に泊まっていった男たちは多い。
恋人と呼べる人もそうでない人もいた。
本来の性分は、
独りが好きで特定の男を決めない方が楽だと思うタイプだ。
そんな状態だから、付き合っても長く続かないことの方が多かった。
だからこうして一緒に暮らした男は一人もいない。
暮らしたいと思った相手もいない。
真乃斗くん以外は。
真乃斗くんはどこか怠そうに無言で立ち上がると、
まるで俺の存在が見えていないかのように、
こちらを見ずにリビングを出て行く。
パタンと扉が閉まると、
心地よく揺れていた空気がピタリと止まったような気がした。
真乃斗くんの存在は、
彼の存在なしでもそれほど大きなものだと改めて思う。
それはもう出会った当初からわかっていたのに、
ここ数日は余計にそう感じる。
それは今月から始まった、
帰ってきたとき、この部屋にいない彼を経験してそう、
感じるようになったのだった。
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