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第47話 高瀬

夏に入ってここ最近、真乃斗くんは哲至に会えていない。 夜勤もある哲至は、 もともと人と会ったり外食することを避けるタイプの人間だ。 そうしてアイツはいつだって、 自分にとって大切なモノを大切にしている。 哲至がどれほどいまの恋人を大切にしてるかは、俺も良くわかってる。 哲至は彼にはじめて会ったとき、 『ようやく出会えた』と思ったのだそうだ。 『待っていた』とも。 真乃斗くんが大切じゃないってことではなく、 哲至が何より大切にしている存在が、いまの恋人なのだった。 目に見えないのにわかりやすい、真乃斗くんのそのイライラが 哲至のことが原因かはわからない。 もしかしたら週に3日だったバイトが週4日になって、 ヒトと接することが増えたことがストレスになっているかもしれないし、 夏の暑さがどこかイライラを引き寄せるのかもしれない。 決めつけるつもりはない。 それでもやっぱり、哲至のことがなにより大きな原因なのだった。 そんなこと、もうずっと真乃斗くんを見ている俺にはよくわかっている。 「わかった、用意するよ」 半分ほど残っているラテを持ちながら立ち上がる。 「もういいって言ってるじゃん」 身体全体を俺から横に向けて、ソファに座って見えるその横顔は なんともやるせない表情をしている。 なんというか、持ってるネツを持て余して それがぐるぐる全身を回っていて、 どう外へ逃がしていいかがわからないって顔だ。 そういう真乃斗くんに、俺はどうしたらいいのかわからない。 医者だなんて肩書も知識も、こんなときになんの役にも立たないのだ。 そうして、なんだか突然、駄々っ子みたいになる真乃斗くんに、 それでも俺は愛しいと思う気持ちが消えない。 持ち上げたグラスをキッチンの流しへ置くと、 真乃斗くんの座るソファに座った。 隣に座るだけで、彼のなんともいえない、 切なくて重くてピりつく空気を余計にダイレクトに感じる。 「タピオカの店を知ってる?」 出来るだけ普通を心掛けて声をかけた。 「うるさい。もういい」 「一緒にタピオカを買って、一緒に飲んであげることくらいは出来るよ」 「なんだよそれ」 相変わらず怒ったままで、 こちらを見ない真乃斗くんに、俺は注意深く触らないようにする。 「それくらいしか出来ることがないってことだよ」 冷たく聞こえるかもしれない。 でもそれは本当のことだ。 真乃斗くんの心は読もうとしなくたって読めてしまうのに、 真乃斗くんがわかりやすく欲しがっているモノを、俺は与えてあげられない。 誰より愛しい相手なのに。

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