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第48話 高瀬
真乃斗くんは辛そうに、
怒りと悲しみのおそらく両方をどうにも出来なくて、
全身でやるせなさを持て余してる。
こういうとき、こちらから距離を詰めない方が良い。
そんなことよりもつかず離れずの距離で相手を
・・・真乃斗くんを・・・
ただ見つめて、見守って、そばにいること。
突き放すでも受け入れるでもなく、ただ、そこにいるだけしか
出来ることはない。
極論、誰もが誰かのために、出来ることなんてひとつとしてないのだ。
ただ心の中だけで、狂おしいほど愛しいと想って、
ただ幸せで在って欲しいと思うことすらも
ただの自己満足でしかない。
相手の本当の気持ちなんて、願いなんて、
どんなときもいつまでたっても、すべてをわからないから。
「真乃斗くんの気持ちを少しはわかるよ」
「わからないよ。オレにだってわからないんだから」
真乃斗くんは正しい。
実際はその通りだ。
それでも、わかっていてもそう言ってしまうのだ。
辛そうな真乃斗くんをそのまま放ってはおけない。
大切なヒトなのだ。
人間とは・・・俺はとてもおろかだ。
「少しはわかるよ。だって」
・・・だって。
「俺も同じだから」
同じところもあるから・・・が正解だ。
本当は、「同じ人間」などいないのだから。
「俺も、好きなヒトがいるんだよ」
言ってしまって少しだけ後悔した。
その言葉は、俺の想いはきっと、
もっと苦しめてしまうとわかるから。
それは真乃斗くんも、そして、俺自身も。
すると真乃斗くんが・・・俺の好きな相手が・・・
ゆっくりとこちらを見て、
その瞳はなんていうか、哀れみに満ちている。
「そうして、その人が好きなのは俺じゃない。
だから、、、少しはわかるよ」
その悲しみや怒りを。
すべて同じではないにしても、わかることもある。
「・・ごめんなさい」
そんな目をさせて謝らせてしまって、やっぱりそれは
とても後悔する。
そんなことがしたいわけじゃないのだ。
ただ、この男が幸せでいて欲しいだけ。
そうして、それが出来るのが自分でないことがもどかしいだけ。
俺は真乃斗くんに触れたいと思いながら、
手を伸ばさなくても触れられる距離にいる真乃斗くんに、
手を伸ばさないよう必死で気を配った。
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