49 / 101

第49話 高瀬

どうか伝わって欲しいと思って、言葉を選ぶ。 「真乃斗くんが謝ることなんてなにもない。 苦しいのはわかるし、 怒ることも泣くことも悪いことじゃないから」 俺ははじめて真乃斗くんに触れたとき以来、 滅多に、真乃斗くんに好きとは言わない。 裸で抱き合っているときにすら、言わない。 言ってしまわないよう気を配る。 本当にとても好きだけど。 本当はとても言いたいけれど。 だって、俺に気持ちがないのに俺に抱かれる彼の苦しみを、 俺はわかってあげられないから。 好きな人がいて、 その人に気持ちを伝えられない、 真乃斗くんの気持ちを俺は一生、わからないのだ。 「謝らなくていいし辛いなら泣いてもいい。 でも落ち着いたら一緒にタピオカを飲みに行こう」 「・・・高瀬さんも本当に飲みたい?」 申し訳なさそうに言う真乃斗くんを救ってあげられないと知りながらも、 やっぱり抱きしめたかった。 本当はずっとそうしていたいのだ。 求められていないとわかっていても。 真乃斗くんが嫌がっても。 「ああ。本当に飲んでみたい。 ラテはもうないし、今日は甘くて冷たいモノが飲みたいんだ」 言葉通り、それは本当の気持ちだった。 本当は真乃斗くんにはいつだって、本当のことを言いたいのだ。 「・・暑いもんね」 「ん。今日は暑いし、真乃斗くんとする初体験はいつだって 俺を幸せにする」 これも本当だ。 真乃斗くんは一緒に住んでくれた初めての相手で、 はじめて気持が止められない相手。 たくさんの初めてを体験させてくれるヒト。 いつだってなにをするのだって、彼となら幸せなのは事実だった。 「オレも高瀬さんと居られて幸せだよ。本当だよ」 「ん。わかってる」 自分を偽ることが出来ない真乃斗くんを、俺はとうとう抱きしめる。 すると、真乃斗くんは俺の背中に腕を回して、 自分から俺にキスをした。 それはあまりに悲しいキスだったので、 唇が離れないようにしながら細い身体を引き寄せると、 もっと目いっぱい抱きしめた。 もっとほかに、なにか出来ることがあればいいのに。 こんなに近くにいるのに こんなにも好きなのに 俺に出来ることなんて何もないことを、嫌ってほどわかってしまう。 きっと、真乃斗くんは俺より苦しい。 だって真乃斗くんは 今日も哲至に・・・好きなヒトに・・・会えないのだ。

ともだちにシェアしよう!