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第50話 高瀬

その日、 真乃斗くんと一緒にはじめて飲んだタピオカジュースは、 驚くほど甘かった。 そうして、甘いものは人を幸せにする。 それはとても刹那的なモノではあっても、二人して美味いと言って笑って、 その初めてを一緒に体験できたことは事実だった。 でも俺たちは互いにその儚さに耐えられなくて、 だからその日も裸で抱き合う。 もうそうすること以外、出来ることが見当たらないのだ。 少しの先の未来もみえないままで、 暑い夏は始まって、そうして急速にトキはすぎていく。 真乃斗くんのどこかやりきれない気持ちをどうにもできずに 季節は夏も真っ盛りになると、 真乃斗くんはますます、気持ちがグラグラと揺れているのがわかった。 花屋のバイトは続けている。 けれどもソファーで寝ていることが増えて、 起きるといつも「寝ちゃってた」と言ってそして、 とても悲しそうに「ごめんなさい」と謝る。 俺は腕を伸ばさないよう気を配りながら、 謝る必要なんてないと毎回言って、 真乃斗くんがしっかり頷くまで待った。 「ここにいられて幸せだって思ってる」 「ん、わかっているよ。よくわかってる」 本当にわかっている。 二人とも。 けれどもなにか、決定的になにかが足りないのだ。 それを二人ともわかっている。 なにより、それを埋められないことをわかっているので、 あえて言葉を使うのだ。 その薄暗い見えないモノの存在感は、見えないくせに強大で膨大で、 この3月に始まったばかりの二人の歴史では到底、 太刀打ちできないのだった。 ただ好きだという気持ちだけでは、どうにもならない。 そうして、 そうとわかってはいても、いまの状態をどうにもできない。 寂しさで引かれ合って繋がってる二人には、 明るく、眩しいものを見ようとしたり、 ましてやその期待などしてはいけないのだと、 まるで見えないそのナニカに言われているようだった。 ーーー・・・ 「どうかした?」 平日のお昼。 真乃斗くんと一緒に暮らすようになってから、 ときおり哲至に誘われて、こうしてランチを共にするようになった。 とはいっても、 哲至はランチの時間すらままならない日が多いのだが。 話題は仕事に関することが多くなりがちだったが、 それでも、中心にあるのは真乃斗くんのことだ。 忙しい中、俺との時間を取ることは 哲至なりの、それは兄としての想いの現れなのだろう。 けれども真乃斗くんの気持ちを知らない哲至に、あまり多くは語れない。 もぐもぐと口を動かす目の前の哲至に視線をやれば、 穏やかって空気がそこいらにあって、 それはいつものこととはいえ、どこか羨ましいと思ってしまう。 「たまにはウチ来いよ。真乃斗くんに会いに」 そうして、 出てくる言葉はすべてが厄介だった。

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