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第51話 真乃斗
花たちは。
自分が新鮮なうちに自分の行く先が決まらないと、
「見切り」といって、
まだその美しさを振りまいてるその最中に捨てられる。
いま、手元の段ボールに入ってる花たちは、
まだ色とりどりの花を咲き誇っているものもあるのに、
いま、オレの手によって捨てられようとしている。
「見切り」の作業にはけっこうな経験がいる。
遅すぎても早すぎてもいけないのだ。
だから新人のオレ自身がその花たちを選ぶことは、
いまだにやったことがない。
けれどもこうやってただ「捨てる」作業だけは任される。
これは必要な作業だ。
そんなことはわかってる。
いま手元にあるのはただの花だし。
オレには関係がない。
それなのにどこか哀しくなる。
なんともいえない気分になる。
花屋の仕事は好きだけど、
なんならパソコンを使ったお金の管理とかだって
もうずいぶん慣れたけど、
この作業だけは気分が重くなってしまう。
慣れないし・・・慣れたくもない。
「お疲れさまでした~」
ココに勤めてもう3か月以上がたっているけど、
オレはいまだにアルバイトで一番下っ端で、週に4日しか働いていない。
そもそも別に、先のことなんて何も考えてもいないから、
一日の働く時間も誰よりも少なくて、
みんなはまだあと数時間残っているけど、オレだけ早く上がった。
そのままどこにもよらずにまっすぐに「家」に向かう。
それはオレの家ではないけれど、オレの自由になれる場所だ。
高瀬さんが帰っていない部屋に自分で鍵を開けて入ると、
もあっとアツい空気が揺れた。
外を歩いている間中、帰ったらビールを飲もうと思っていたのに、
靴を脱いだ途端、もう眠気が襲ってくる。
汗をかいた身体をすぐにシャワーを浴びたい気持ちだってあるのに、
自分の足は勝手にソファに向かってしまう。
クーラーをつけると、
高瀬さんが買ってくれたタオルケットを取り出して、
そのまますぐにソファに倒れ込むと、
もうそれだけで瞼は重くなってしまう。
いったい自分はどうしたっていうのだろう。
ここのところ明らかに不機嫌で、
気づいているのに
その気持ちの波をどうにも出来ずにいることはよくわかってる。
うまく言葉にできなくて、
高瀬さんに当たってしまっていることもわかってる。
もう子供じゃないのに、
自分のイライラをどうにも自分でコントロール出来ない。
すべてが「八つ当たりだ」とわかっているのにどうにもできないのだ。
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