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第52話 真乃斗

冷たいくらいにクーラーをきかせてタオルケットに包まった。 高瀬さんが買ってくれた肌触りのいいソレに包まれながら、 哲至さんを想う。 オレが知ってる哲至さんはいつもうっすら微笑んでいて、 オレはもっとむすっとした顔や怒った顔や、 すねた顔やだらしのない顔だって見たいと思う。 この数年間の月日の中で、哲至さんは一度だって オレの前ではそういう顔をしてくれないのだ。 きっと、あの色白の恋人の前ではいろんな顔を晒してるくせに。 高瀬さんの部屋で哲至さんを想う、自分の世界は息苦しい。 それはまるで真っ青な海の中に漂ってもがいているように。 下を見れば底は見えずに、そこには真っ暗な世界が広がっている。 見つめてしまえばそれは、まるで渦を巻いていて、 その暗闇に吸い込まれそうだと思えてゾクリとする。 このまま落ちていってしまったら最後、 もう二度と、 きっとソコから這い上がってこれないような感覚がこみ上げてきて、 それはあまりに怖くて上を見る。 見つめる先には水色の世界が揺れている。 それは淡い色なのに、明るくてとても暖かく見える色だった。 オレは慌てて必死にもがきながら、 上に広がるその世界にたどり着こうとがんばるのに、 それはいつだってただただ波もが揺れるだけで、一向に浮上できない。 それどころか逆に、 どんどんと沈んでいってしまっているように感じる。 恐怖と不安と、 そうして、 もしかしたら、堕ちてしまったほうが楽になるんじゃないかとすら思えて、 オレはもういったいどうしたらいいのかが わからないままで・・・ーーー・・・・・・・・ 「高瀬さん」 「よく寝てたね」 自然と瞼が開けば、そこには高瀬さんが帰って来てた。 この瞬間、オレはいつもドキッとして 少し焦って上半身を起こす。 そして、きまって視線がキョロキョロとするのだった。 「いま何時?」 起きてすぐ、 オレは必ずこの質問を高瀬さんにしてしまう。 だって起きるたび、 いったい自分はあちらの世界にどれだけ 「居てしまったのだろう」と不安になるのだ。 「7時を回ったところ」 「ごめんなさい、また寝ちゃった」 そうして、なぜだか謝ってしまう。 起きることと謝ることはセットになっているのだった。 そして、そういうオレにいつだって決まって、 高瀬さんはどこか哀しそうな顔をした。 そこまで来てようやく、ああまたやってしまったと気づいて、 そんな顔をさせてしまうことを知っていたのに 今日も謝ってしまった自分にまた、どこか苛立った。

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