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第54話 真乃斗

ソファの上でどうしようもなく眠気が襲って、そのあと自然と瞼が開くと、 ほとんどだいたい、目の前には高瀬さんがいた。 「おはよう」 そうしていつも、おはようと笑う。 その声のトーンはいつもだいたい一緒で、 オレの起きた時間がお昼でも夕方でも夜でもそう言って笑った。 「・・・また寝ちゃった」 気づけばまた、オレはそう言ってしまう。 そうして、言ってしまったあとで後悔する。 もう毎回毎回だ。 中途半端に起き上がると、どこか気まずい。 なんとなく視線を合わせられない。 すごく悪いことをした気分になるのだ。 最近ではこれも毎回だった。 「いつから寝てた?」 「いつだろう。わかんない」 「そっか」 高瀬さんはゆっくり腕を伸ばすとオレの髪を撫でる。 最近の高瀬さんはこういうとき、 オレに触るのをどこかためらってるように見えるのは気のせいだろうか。 そうして、髪を撫でながらなんとなく、 その大きな両目をオレの携帯に流したように見えた。 だから無意識に、オレも携帯を見る。 「着替えてくる」 高瀬さんは立ち上がってそう言った。 「っ夕飯これからだから」 「ああ。先に風呂入って来る。暑かったしちょうどいい」 高瀬さんはやっぱり、いつもと同じトーンで言った。 本当なら高瀬さんが帰ってくる前に、 夕飯の準備を終えていなければならないと思うのに。 最近のオレはそれも出来ていないことが多くなってる。 そうして、そういうオレを高瀬さんは一切責めたりしない。 責められないことがなぜだかすごく辛かった。 いまだタオルケットに包まったままで携帯をさわると、 そこに哲至さんからメッセージが来ていた。 瞬間、眠気はどこかへ飛んでいって、慌ててそのメッセージを開く。 それは今週末の金曜日、 仕事終わりに夕飯をココで食べてもいいかという内容だった。 間違いなく気分が上がった。 どこかホッとした気持ちにも似ていた。 だってオレはもう1か月以上、哲至さんに会っていないのだ。 ーーオレは平気。高瀬さんもたぶん平気だと思うーー その日、オレはバイトがないし、 夜勤のない高瀬さんはその日もいつも通り帰ってくるはずだ。 ーー哲至さん、なにか食べたいものある?ーー メッセージをして既読になるのを待たずに携帯を閉じると、 ようやく背伸びをしながら起き上がる。 海の上にようやく上がった気分だった。

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