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第56話 真乃斗

金曜日はあっという間にやって来る。 哲至さんは魚が好きで和食が好きだってことは知っていたし、 実際、自分もたいして料理なんて出来ないから結局、 少し豪華な刺身の盛り合わせを買うことにした。 あとは煮物とか卵焼きとかサラダとかアスパラを豚肉でまくとか、 いつも夕飯でつくってるものとあまり変わり映えしないようなモノで、 けれど哲至さんが好きそうなものを作ろうと決めて、 ビールもワインもたくさん買った。 もちろん、高瀬さんの好きなカクテキやザーサイは忘れずに買ったし、 締めに食べる用で冷麺も買った。 いつものスーパーが、まるで遊園地みたいに楽しい場所に思えた。 ーーー・・・ 高瀬さんが帰って来るにはまだ少し早い時間、 ほとんど料理の支度が終わったくらいになって、玄関のチャイムが鳴った。 頭ん中では勝手に哲至さんを想像する。 明らかに胸がドクドクいって、インターフォンの画面を見たら・・・ 「・・・いま開けます」 「は~い」 ソコに映っていたのは、哲至さんの恋人だった。 「こんばんは~」 玄関を開けて出迎えると、哲至さんの恋人はにっこり笑う。 「・・こんばんは」 明らかにテンションが低いのを、 きっとこのヒトはわかっているんだろうなと感じた。 「今日はお招きありがと。あれ、二人ともまだなの?」 言いながら靴を脱ぎはじめて ・・・それはなんだか、 まだ帰って来ていないことを知ってたみたいな言い方で・・・ くつを揃えるとくるりとこちらを向く。 「っ・・まだ帰って来てません」 「そっか」 どちらかといえば小柄な人なのに、なぜだかいつもこのヒトには圧倒される。 それはこのヒトが哲至さんのとても大切なヒトで、 さらにはこのヒトの瞳がまっすぐだからだ。 「どうぞ」 すでに用意してあったスリッパをはくその人を、リビングへ案内した。 哲至さんが来る、イコール、このヒトも来るということは、 ちゃんとわかってはいた。 それはまるで当然みたいに、 哲至さんのメッセージにも書いてあったことだった。 それでもまさか、一番乗りでこの部屋に来るとは思ってなかったのだった。 このヒトにはせめて一番おそくに来て欲しかったなんて、 これはとても失礼なことだと思うけど仕方がない。 「わぁ美味そう。ぜんぶひとりで作ったの?」 「はい・・って言ってもたいしたことしてないです」 確かこのヒトも哲至さんと高瀬さんと同い年だったはずだけど、 その顔には幼さが見え隠れしてとても若々しく映る。 「奥野の好きなモノばっか」 笑いながらそう言われて、オレは唇をキュッとした。

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