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第60話 高瀬
ーーー・・・
土曜の、もうすぐお昼近い午前中。
ようやく哲至とその恋人が帰ってすぐに、
真乃斗くんの腕を引っ張ってベッドルームへ連れ込んだ。
明るい中、二日酔いの少し浮腫んだ顔が少し驚いて、
その顔にも欲情しかしない俺はおかまいなしにキスをすれば、
真乃斗くんは抵抗しない。
その細い身体を力いっぱい抱きしめると、
真乃斗くんは夏の匂いがする。
Tシャツのすそから手のひらを滑り込ませると、
出来るだけ唇を離さないようにして、手早くその薄っぺらい布をはぎ取った。
両手で両手首を押さえつけて上から見下ろすと、
「はぁ・・っ・・・」
真乃斗くんの薄い胸板が上下に動く。
それはどうしたって魅力的で、こちらを誘っているようにしか思えない。
思わずアツい息が漏れた。
ーーー・・・
昨晩、哲至のせいでいつもより30分ほど遅くに帰宅すれば、
玄関先には決して大きくはない、見知らぬ靴が目に入った。
哲至があからさまに嬉しそうな顔をするのを横目で見つつ、
リビングのドアを開ければそこには、
ソファに横並びになってゲームに夢中になってる二人がいた。
「、、、ただいま」
「あ~おかえり」
二人は両手をせわしなく動かしながら同時にそう言って、
しばらく待っても真乃斗くんの視線が絡まなくて、
気づけば隣の哲至と視線が絡んだ。
明らかに陽気で軽快な空気が漂っていて、俺はどこか面食らう。
だって真乃斗くんはこの男を・・・哲至の恋人を、
決して好きではなかったはずだ。
キッチン脇のテーブルの上にはもうけっこう食べ散らかした刺身の大皿と、
真乃斗くんが作ったんだろう唐揚げやサラダやなんやらと、
ずいぶんたくさんのビールの空き缶が散らばっていた。
「もうこんなに飲んだの?」
真乃斗くんへ声をかければ
「だって遅いんだもん」
画面を向きっぱなしの視線はいまだ、こちらを向かない。
「遅いって言ったって、、、」
たったの30分ではなかったかと視線が泳ぐ。
するともう一度、哲至を視線が絡んだ。
すでに飲み会の中盤のテンションな二人をよそに、
ネクタイを外すと冷蔵庫を開ける。
かろうじて残っているいくつかのビールのうち2本を取り出して、
テーブル席に腰かけた哲至の前に置いた。
「どうしたんだろ」
「まぁいいじゃない」
哲至は俺を見ずにそう言って、
年甲斐もなくゲームに夢中なその男を見つめて幸せそうに笑う。
つられて俺も真乃斗くんを見つめれば、
大きな口を開けて笑ってるその姿になんだかホッとして、
けれども自分も哲至と同じ表情になっていることには気づかなかった。
「ひとまず乾杯」
「ん。お疲れ」
哲至と並んではしゃぐ二人を眺めてる自分が、
なんだかおかしな気分だった。
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