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第63話 高瀬

真乃斗くんのどんな声も好きだ。 俺より少し遅く起きてきてリビングで聞く寝ぼけたおはようや、 感情のコントロールがきかなくてイラつきながら言ううるさいや、 ソファで寝てしまったあと、 寝起きのとても辛そうなごめんなさいもすべてが。 けれどもこの最中の、いつもより少し高くなる、 言葉にならない甘く喘ぐ声は特別、俺の全身に響く。 だってそんな濡れたその声はいまのところ、俺だけが知っている。 俺だけの真乃斗くんなのだ。 二本目の指を遠慮せずに挿れ込んで、 わざと音を立てるようにしてその場所を擦りあげれば、 真乃斗くんも遠慮せずにさらに甘い声をあげる。 そのまま、揺れてる膨らみを口に含んだ。 「んぁあ・・・っ・・」 真乃斗くんの声がひときわ気持ちよさそうに大きくなるととたん、 また別の興奮がやって来る。 そうして二人だけの甘い空気はただ甘いだけではなくて、 どこか秘密めいて、どこか不埒な、 そのくせどこか最も神々しい空気もそこには流れる。 俺はいまのところ突っ込まれた経験はない。 おそらくこの先もないと思う。 ・・・真乃斗くんが興味を示さなければ。 だからいま、もともとソコを使う世界とは無縁だった真乃斗くんが どれほどそのナカで気持ちよくなれてるのかは想像すらも出来はしない。 けれどもいま、唇で感じるその場所の気持ち良さは知っている。 だからせめて、その声と唇で 真乃斗くんの本当のカンカクを知りたいと思う。 ただ気持ち良さしか残らなければいい。 この行為の全ての間中、 遠慮や心配や不安や・・・たとえば罪の意識なんかを。 なんならもう、幸福や希望や愛なんていったことすらも、 すべてを忘れて欲しい。 すべてを忘れて ただ、感じる世界で 自分を否定するでも肯定するでもなくて、 ただ、そこにいて欲しい。 俺のことを想う必要すらない。 だって・・・ 「ぁあ・・・っ・・高瀬さん・・・」 俺は真乃斗くんを想っているから。 「気持ちぃ?」 「はぁっ・・ん・・もちぃ・・・」 いくらこの肌を撫でても、 唇で、声で、言葉で、どれほど愛しいかを伝えても、 真乃斗くんという存在はとても遠いのだ。 それはとても悲しいけれど・・・ 「もっと気持ちよくなって」 この気持ち良さを忘れないでいてくれたそれでいい。 本当に・・・

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