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第65話 高瀬
ついさっき、あれだけ汗をかいてシャワーを浴びたというのに、
まだ昨日の酒が残っているのだろうか。
「なに言ってんの?」
スプーンですくったオムライスの欠片たちが
行き場を無くしてる。
「じゃあ哲至さんの恋人とは?ある?」
呆れてモノが言えないことって本当にままあるのだけれど、
こんなにその言葉が当てはまる状況は
この先にはないだろうと思えるほど、その状況だった。
「なんなのその発想」
「だってみんな男の人が好きだし。それにみんなキレイだし」
「あのねぇ、、、」
説明する気にもなれなくて、思わず深くて長いため息をついた。
「綺麗ってのが当てはまるかは置いといて、
真乃斗くんだって綺麗なら誰だっていいわけじゃないだろ」
「まぁね」
「なにを吹き込まれたのか知らないけど、
哲至相手なんてありえないよ」
確かに哲至は人当たりが優しくておっとりしている。
けれどもアイツは決してそっち側にはならない。
下手をすれば俺より男らしいのだ。
「じゃあ哲至さんの恋人は?」
もう一度、短くはぁっと息を漏らした。
確かに可愛いタイプだと思うけど、
だからってどうしてそんな発想になるのだろうか。
「昨日、俺たちが帰ってくるまでに
二人していったいなにを話してた?」
昨日までの真乃斗くんからは想像できないその発想に、
それは昨晩、俺たちの帰ってくるまでの間の時間に理由があるのだと
容易に察しはつく。
確かにヤンチャをしてた時代はあるし、
哲至もその恋人も、そんな俺をよく知っている。
けれどもだからといって、あの二人とどうこうなるわけはない。
「男同士は悲劇だって」
「え?」
「男同士なんて悲劇なんだって。
時代が変わってもいまだに救われないんだって」
真乃斗くんは数回、瞬きをすると視線が揺れた。
「でもそんな悲劇の中でも、
このヒトかもしれないってヒトに会っちゃったら、
それはもう感動しちゃって降参するしかないんだって」
俺は何も言えなくなってしまう。
そして、だからこそ苦笑した。
「そういう話しをした後に、どうしてそんな発想になるんだよ」
「だって・・・
哲至さんの恋人って素敵なヒトなんだなって思っちゃったんだよ」
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