67 / 101

第67話 高瀬

「若かったの」 それだけではなかったということをわかりながらそう言った。 「それにもうしないよ。 だって俺はいま、真乃斗くんとしかそんなことをしたくはないから」 そして、好きだという言葉を使わずに好きだと言った。 哲至を好きな真乃斗くんに、俺の気持ちはどう伝わっているのかが、 ずっとわからないままで過ごしている。 けれどもどこか幸せそうに笑ってくれる真乃斗くんに、 俺は間違いなく救われる。 自分の気持ちが迷惑だと言われないことだけでも救いなのだ。 どうせこの想いは消せないのだから。 俺にとって身体だけでもそばに置いてくれることは幸せでしかない。 できるなら、気持ちっていう見えないモノまで欲しいと思う。 でもそれはとても贅沢な事だった。 だって哲至のことがなくたって真乃斗くんは基本、 女性を好きになれる男なのだから。 「タピオカ飲みたい」 突然、話題が変わる。 そうして出会った頃と変わらない、 いまもどこか邪気のない幼い顔つきで屈託なく笑って俺を見つめた。 俺の回りくどい告白を含め、 昨日からの余韻のもうすべてはここでおしまいと ハッキリ言われているのだと思った。 そういう潔さみたいなモノ。 そして、本心を隠すことにエネルギーを使わない真乃斗くんが、 やっぱり特別、とても好きだ。 「じゃあ食べたら買いに行こう」 「外暑くて出るのイヤ」 「じゃあデリバリーで頼む?」 真乃斗くんはいまって便利だよねと淡々と言って、 一口、オムライスを頬張った。 「高瀬さんも好きになった?タピオカ」 「そうだね」 「ムリしてる?」 「無理してない」 この間飲んだタピオカは「黒糖ミルク味」だった。 それは確かに甘くて美味しくて、 モチモチしたタピオカの触感も好きだし、 これから先にもときには飲みたくなる気がする。 「でもブームはもう終わってるんだよ」 「そうなの?」 「そうなんだよ。 まぁ美味しいからオレにしたら流行ってるかどうかはどうだっていいけど」 お店がどんどんなくなっちゃうのは困ると口を尖らす。 「タピオカって売ってるのかな?」 一瞬、意味が分からなくてでもすぐにわかった。 「つまりタピオカジュースじゃなくてタピオカってこと?」 「そう」 甘酒同様、きっと自分でつくりたいのだろう。 そうして、 だからこそきっと、この先もタピオカを飲むのだろうと思う。 けれどそれは真乃斗くんがいるときだけだ。 真乃斗くんがそばにいてくれる限り、 俺はこの先も、タピオカを飲むことができる。

ともだちにシェアしよう!