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第72話 真乃斗

「今日は誰の画?」 どうせ名前を聞いてもわからないと思いつつも、 それを聞くのはもうクセみたいになっているから思わず聞いてしまう。 「今日のはいろんな人の画が集まってる展示会だよ」 「へぇ」 美術館に着くと明らかにいつもよりも人が少なくて、 オレはとても嬉しくなった。 なぜって混みあっていない美術館では、 哲至さんをたくさん見つめられるから。 オレにとって美術館は、 画ではなくて哲至さんを眺めるための場所なのだ。 ゆっくり歩く哲至さんの少し後ろを歩いて、 哲至さんの空気ごと、哲至さんを見つめるだけで、 オレの全身がズキズキっと音を立てる。 それはカタチになれない音。 この先もずっと、 あることすら認めてもらえない音。 それはどこか甘くて苦い、切ない音だ。 だから少し苦しい。 けれど、会えないよりはずっとましだ。 ーーー・・・ 「真乃斗くんのそばに居てくれる人が景ちゃんでよかった」 「え?」 いつものようにじっくり2時間以上をかけて美術館をまわったあと、 哲至さんとランチをしてるとそんなことを言われた。 い変わらず哲至さんは大して食べないけど。 そして、そんなことを言われたとたん、頭のナカにモヤモヤがかかる。 「まさか二人がこんな風になるとは思ってなかったけど、 なるべくしてって感じなのかな」 哲至さんはとても嬉しそうに、やっぱりよくわからないことを続けた。 「真乃斗くん、景ちゃんの話しばかりしてる」 「・・・そうかな?」 「ん。景ちゃんのコトが好きなんだね」 「え?」 目の前がクラリとした。 哲至さんはいったい、何を言ってるんだろう。 「景ちゃんかっこいいもんね。 見た目だけじゃなくて中身もさ」 「・・高瀬さんがかっこいいのはそう思うけどでも」 「お似合いだと思う」 びっくりした。 信じられないと思った。 あまりにびっくりして、頭ん中が真っ白になる。 確かに高瀬さんはオレを好きだ。 だから一緒に暮らしてほしいと言われたのだ。 そうして、 オレだってそう言う意味じゃなければ高瀬さんを好きだけど、 それはいま、哲至さんが感じているような好きではない。 まさか哲至さんからそんなことを言われると思ってはいなくて、 オレは明らかに傷ついている。 もうずっと高瀬さんの部屋で一緒に暮らして、 キスどころかそれ以上のこと、 たとえば昨晩だってベッドの上で 高瀬さんに向かって股を開いて自ら腰を振って、 あられもなく喘いでいたというのに。

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