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第76話 真乃斗

慌てて後を追う。 だってもう、後を追うことくらいしか出来ることがないのだ。 「どんな部屋がいいとかある?」 やっぱりこちらを見ないで、哲至さんはそんなことを淡々と言った。 言ってしまったこと ・・・それはホテルに行きたいってことはもちろん、 自分の気持ちを伝えてしまったことも含めて・・・ のぜんぶを後悔する。 そうして、このヒトを好きになってしまったことをとても辛いと思った。 いまなら止められると思って、それなのに言葉が出てこない。 答えないオレを無視して、 哲至さんは独りで部屋を決めるとようやくこっちを向いて、 相変わらずあの笑顔で行こうと言った。 その笑顔をはじめて、怖くて冷たいと思った。 ーーー・・・ 哲至さんの選んだ部屋はそこまでそういう雰囲気がある部屋ではなくて、 心なしかホッとする。 「なにか飲む?」 けれども、哲至さんが言う何気ない一言一言にいちいち過剰にビクついた。 「もしかして哲至さん怒ってる?」 「怒ってないよ。どうして?」 「だって」 ・・・だって。 自然と視線は下を向く。 どうしたって哲至さんを真っすぐには見れない。 こんな仕打ちは予想外だったから。 「哲至さん、オレのことなんて好きじゃないでしょ」 自分で言いながら哀しかった。 好きなヒトに好きになってもらえない自分が。 それを自分で言葉にしなければならないことも。 「好きじゃないくせにどうして」 自然と両手に力が入って、Tシャツの裾辺りをぎゅうっと握った。 「好きじゃなくても出来るよ」 「そんな・・・」 台詞は。 聞きたくなかった。このヒトから。 そんなことを言って欲しくないと思ってそうして、 自分があまりにぐちゃぐちゃだなとも思った。 だって自分はもうずっと、高瀬さんに抱かれているのだ。 「好きって言われて嬉しかったよ。嘘じゃない」 でもねと哲至さんは続ける。 「でも、好きで居続けなきゃいけないわけじゃないよ」 「・・・なにそれ」 思わず哲至さんを見つめる。 相変わらず困惑してるのは自分だけだった。 哲至さんはやっぱりうっすら微笑んでいて、 オレは言ってる意味が分からなかったしわかりたくないとも思った。

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