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第77話 真乃斗

ここまできて、 それでもなお自分の想いをないがしろにされたよう気分になるのは とてもイヤな気分だ。 「好きになる相手が変わることはあるでしょ」 「なんだよそれ」 恋人が世界一大事だと言って、オレを独りにして 実家にも帰ってこなかったこのヒトはいったい何を言ってるんだろう。 あのヒトのこと、運命の人だと言っていたくせに。 「哲至さんは恋人をキライになる日が来るかもしれないと思うの?」 「思わないよ。でもわからないよ先のことなんて。 誰にも。俺にも。アイツにもね」 相変わらず淡々と言って、やっぱりオレにはよくわからない。 「俺はアイツに会って今日まで、アイツをずっと好きだった。 でもこの先、明日からその先も気持ちが変わらないかなんてわからないよ。 ただ、俺はそれを望んでるってだけ」 こんな場所で、こんな状態だっていうのに、 あの人を想うときの哲至さんは相変わらず優しい、何とも言えない顔をする。 悔しいはずのその事実は自分の全身をキュウっとさせて、 そうして同時になぜかホッと安心して見つめた。 「どういうこと?」 「アイツのそばに居たいってのは俺の希望なんだ。 希望ってのは叶うかどうかわからないけど叶えたいことだってこと。 好きでいたいんだよ。アイツのことを。 この先にもずっと。 俺はアイツをずっと好きでいたくて、ただそれを願ってるってだけ」 運命であってほしいと願ってるだけだよと続けた哲至さんの顔は、 とてもオトナな顔だった。 それはまるでオニイチャンみたいな、そういう顔。 「真乃斗くんは俺を好きで居続けたいって思う?」 「え?」 「好きな男と暮らしてる、 真乃斗くんを好きではない俺とセ ックスをして、 そうして、この先にも俺を好きでいたいって思ってる?」 オレは驚いた。 だって好きでいたいかなんてことを考えたことはなかったのだ。 ただ気づいたときはもう好きで、好きでいるしか出来ないと思ってた。 「真乃斗くんのことをそういう意味で好きじゃなくて やろうと思えば出来るよ。たとえ血の繋がるオトウトでもね。 だって俺は真乃斗くんの希望を叶えてあげたいから。 でもさ、出来るのと望んでるってのは少し違う。 本当に望むならそれを経験した方が良いと思うけど、 もしもそれが望んでることじゃないなら、ムリに経験する必要はない」 たんたんと、けれどどこか力強くそう言われると、 そんな風に考えたことがなかったオレはやっぱり少し困惑した。

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