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第78話 真乃斗

オレはなにを望むのだろう。 そんなこと、考えたこともなかったけれど 改めて希望や望みって言葉を感じながら頭に出てきたそのヒトは、 決して驚くような相手じゃなかった。 哲至さんの・・オニイチャンの優しい目を見つめる。 それはオレを愛しいオトウトとして見つめる目だった。 おまけに、 オトウトとこんな場所にいながら、 それでもいまこの瞬間にも、ココにはいない恋人を想ってる、 そういう瞳でもあった。 「オレ、哲至さんがホントに好きだよ。好きだけど・・・」 間違いなく、オレはこのヒトが好きだ。 でも・・・ 「別にセ ックスなんてしなくてもいい」 好きでもないのに抱かれたいわけじゃなかった。 このヒトを・・・哲至さんを・・・オニイチャンを本当に好きだけど。 「オトウトとして可愛がってもらえたらそれで」 本当に幸せだって思ってると続けた。 これは本当だった。 本当にそう思った。 本当にそう思ってたことに気が付いた。 オレじゃない他の男を一途に思うオニイチャンに身体をあずけても、 きっとそこには悲しみが漂うだけだった。 それは、オレの望みじゃない。 そんなことがオレのしたいことじゃない。 だってオレは、自分を哀しくさせたいわけじゃないから。 誰が何と言おうとも、オレの中ではっきりとそうわかったのだ。 「きっと俺たちはキスしようと思えばできるけど、でもしないでしょ」 「うん」 「つまりはそう言うことだと思う」 しようと思えばできるのに、 オレたちはきっとそんなことはしないのだ。 それは、哲至さんがオニイチャンだからとか、 大切な恋人がいるからってことじゃなく、 ただオレの望みじゃなかったからだった。 たまらなくキスがしたい相手ではないってこと。 好きだという気持ちは勘違いではないけど、でも・・・ 「本当は誰とキスがしたいの?」 ああそうかと思う。 「いまキスをしたいと思った相手が、 真乃斗くんが本当にそばに、いま一緒にいたいヒトだよ」 オレのオニイチャンはとても、オレのオニイチャンなのだ。 哲至さんは不意に近づくとホワリとオレを抱きしめた。 オレはびっくりするくらいホッとする。 「きっと俺たちはセ ックスしない。 出来ないんじゃなくて、したいとは思ってないからそれを選ぶんだ」

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