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第79話 真乃斗

ーーー・・・ 「高瀬さんっ」 キッチンの脇のテーブルのいつもの席に座って、 それはまるで淹れたての瑞々しいコーヒーの香りが漂うリビングで、 オレのその声にびっくりした顔をする高瀬さんのそばに行くと、 自分からキスをした。 その唇の感触はよく知っていて、 よく知ってるハズなのにまるで初めてみたいにも感じて なんだか恥ずかしい。 「高瀬さん、好きだよ」 もうずっと言いたかった言葉をようやく言ったような気分だった。 まるで初めて自覚と共に、自分の素直さを相手に伝えられたような。 すると高瀬さんはおっきな目をもっと大きくしてパチパチっと瞬きをすると、 どこか少年みたいな笑顔を見せる。 「どうした?」 「好きだって言ってるの」 「え?」 「高瀬さんだった」 汗をかいてるのにお構いなしで、 机をよかすようにしてむりやり、高瀬さんと机の間に自分の身体を入れ込むと、 今度は座る高瀬さんの膝の上に乗っかって抱きついた。 「やっとわかったんだよ」 たくましい身体をぎゅうっとする前に、 まるで落ちないようにオレを抱きしめてくれる 高瀬さんの首筋に唇を押し当てると、 冷えた部屋の中でその素肌は想像していた以上にアツい。 オレはもうずっと、流されるって言葉が似合う人生だった。 アメリカに行ったこともこっちに帰ってきたことも専門学校に通うことも。 オニイチャンがいない家で暮らすこともすべては いつだって考えるより先に見えないモノに流されるようにしていて、 自分の気持ちなんて考えてこなかったのだ。 けれどこれは違う。 ちゃんと自分で選んだ。 思えば高瀬さんはいつだってオレに選ばせてくれた。 ここに住むこと。 花屋のバイトも。 そして、居心地のいいソファで寝てしまうことすらも。 「ねぇ。高瀬さんとセックスがしたい」 そして、これも自分で選んでる。 オレは裸をさらけ出すならこのヒトが良い。 股を開いてあんな場所を、あられもないその姿を見せる相手は、 このヒトが良いのだ。 そうして、自分がこのヒトを求めるように、このヒトに求めてもらいたい。 だってわかるのだ。 この男は自分とまったく同じ熱量で、オレに触ってくれること。 高瀬さんが求めるものを与えられるのは自分で、 そうして自分が求めるものを、 まったくちょうどいいカタチで与えてくれるのが高瀬さんなのだ。 オレと高瀬さんはきっと、そういう風にできている。 オレのオニイチャンとその恋人がそうのように。 「高瀬さんとシたい。いますぐ」

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