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第89話 高瀬

オニイチャンと向かい合えてよかったと真乃斗くんが笑いながら言って、 それはとても落ち着いた、まるで哲至のような言い方だった。 ラ ブホテルなんて場所で、いったい二人はどんな話をしたのだろう。 そんな場所に兄弟で行ってしまうあたり、 やっぱりどこか太刀打ちできない二人の繋がりを感じながらも、 もうそんなことに驚くこともない。 さすがに話しの内容を知りたいとも思ったけれど、 いまさら過ぎたこと、 おまけに真乃斗くんはもうどこか吹っ切れていることを わざわざこちらから聞き出すことは俺のすることではないと感じて、 もう何も言わなかった。 「呆れるよね」 真乃斗くんはばつが悪そうな顔をする。 「呆れないよ」 「でもあんなに好きだって思ってたのにさ」 「気持ちが変わることはあるよ」 真乃斗くんが哲至を、 血のつながるオニイチャンを好きだったのは本当のことだったし、 ソレ自体も間違いなんかじゃない。 でも人は変わることがある。 「今日の午前中まで、オレは間違いなく哲至さんが好きだった。 でもいまは高瀬さんが好きだなんてそんなのはなんていうか・・・ ちょっと恥ずかしい。 きっとオレを信じられないと思う。けどさ・・」 「え?」 「え?」 真乃斗くんがあまりにサラリというので、どこか間抜けな声が出た。 「え、、っとちょっと待って」 頭の中がクラリとする。 いまさっき。あまりにもあっさりと。 真乃斗くんは俺を好きだと言ったのではなかったか。 「真乃斗くん、いまなんて言った?」 「なんてって・・え?どれ?どこ?」 パチパチっとするその仕草があまりに可愛らしくて、 俺はまじまじとその顔を見つめた。 「真乃斗くん、俺が、、俺のことが好きなの?」 改めて真っすぐそう聞けば、真乃斗くんは一瞬、大きく目を見開いて、 そこからその可愛らしい顔はみるみる赤くなっていく。 そうして、そんなの帰ってきてすぐ言ったじゃんかと言いながら、 恥ずかしそうにその赤くなった顔を胸元辺りに埋めた。 「どうして、、」 それは真乃斗くんへの問いかけだったのか、 それともただのつぶやきだったのか、自分でもわからない。 ただ自然と、そう言ってしまっていたのだ。 「本当は誰とキスがしたいのかって聞かれて、 そしたらオレの頭ん中には高瀬さんがいたから」 そして、真乃斗くんはそう言った。 「もう高瀬さんが自然といたから」 俺は言葉を失う。 それはとても驚いて・・・そして・・ 「はぁ、、、びっくりした」 「なんだよそれ。わかってなかったの?」 不服そうな顔をして俺を睨む真乃斗くんに、 いまだに信じられなくてぼぉっとしてしまう。 けれども確実に、そこには嬉しさがあった。

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