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第91話 真乃斗
目を閉じたままで、
どうしてだか朝が来たことがわかって目を開ける。
少し遠くにいつもと同じ天井が見えて、
無意識に一呼吸おいて顔だけで隣を向いた。
そこには人ひとり分の空白があるだけで誰もいない。
そうして、それは毎朝の景色だった。
いつものように
決して狭くはないベッドにたった独りでいることを悟ると、
今度はやっぱり無意識に、オレは独り、
ほほ笑んでしまっていることに気づいてる。
ごろりと身体をそちらに転がすと、
そこいら辺りに残る、高瀬さんの面影に全身を埋める。
それはもうずいぶんと薄くなってしまっているけれど、
それでもそこには高瀬さんがいる。
それはきっと気配というヤツ。
高瀬さんがいないのに高瀬さんを感じるこの瞬間を
いまのオレはずいぶんと気に入っていっていて、
大きく息を吸うともう一度目を閉じてそこからほんの数分間、
カタチのない高瀬さんを目一杯感じた。
ーーー・・・
リビングに続くドアを開ければ、
そこはいつものようにオレをおいてけぼりで
コーヒーの香りと共にすでに朝が始まっていた。
そうして、やっぱりいつものように
キッチンの脇のその席に座った高瀬さんがいる。
「はよ」
昔はそれがあまり好きじゃなかった。
ココに来るまでのほんの短い時間、
自分は独りぼっちなのだと思って
・・・思わされているって・・・勝手に感じていたから。
このヒトはどうして一緒に、
ココにオレを連れてきてくれなかったのだろうと、
哀しく、なんなら恨めしくすら、思っていたから。
「おはよう真乃斗くん。よく眠れた?」
けれどそんなことはどうだっていいことなのだといまはわかってる。
間違っていたのだということも。
だって、そこにいる高瀬さんは大きな瞳を細めて、
それはまるで、オレを見つけて・・・というより、
オレがココを見つけて、まるでホッとしてるって顔をするから。
高瀬さんはその周りの空気を巻き込む柔らかさで、
本当に幸せそうにオレを見つめるのだ。
きっとそれは、過去のいつでもそうだったのだろう。
きっとオレが気づけなかっただけで。
「うん。目玉焼き作ろうか?」
「いいね」
だからいまではその顔が見れる、朝のこの瞬間も好きだ。
その笑顔の高瀬さんも、オレだけが知る、オレだけの高瀬さんだから。
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