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第92話 真乃斗

出会ってからずっとオニイチャンを好きだったオレは、 気づけば心変わりをしてしまって、いまでは誰よりも 一緒に暮らしてる高瀬さんが好きだ。 気持ちが変わってしまった自分がどこか情けなかったけれど、 これは「自分が選んだことだ」とちゃんと、言い切れる。 日本に来てからのオレはいつも、 どこか、誰かやなにかに流されている人生をつくってきたように思う。 自分の唯一の家族・・・だと思っていた・・・母親を失ったあの頃、 きっと、 オレのナカのどこかにぽっかり大きな穴が開いてしまったことに、 当事者であるオレ自身が気づけなかった。 きっとあの頃。 自分がどうしたいかなんてことよりも、 ただ、寂しくなりたくなかったのだ。 たった独りの肉親である哲至さんにそばにいてほしかった。 ーーー・・・ 「そんなことないよ。 流れてるように見えて、それだって真乃斗くんが選んでる」 哲至さんと一緒にわけのわからない画をみたのあとのランチは、 相変わらず楽しい時間だ。 いまだにときどき、 こうやってオニイチャンはオレのために時間を作る。 「ってか、そもそも選んで好きになるなんておかしいかも」 そうして、オレはあの日以来明らかに、 自分のことをオニイチャンに話せるようになった。 「運命を選んでるんだよ」 「え?」 「流れってあるけど、でもやっぱりそれも選択してるの」 相変わらずニコニコして、 運命なんて台詞をこんなにサラリと言えるのは、 この世界で哲至さんだけなんじゃないかなって気がしてる。 おまけになぜかこのヒトに言われると、 きっとそうなんだって気がしてしまうから不思議だ。 「哲至さんにとってはカズさんが運命の人?」 「ん」 少しの間も置くことなく、おまけに少しも照れることもなく、 やっぱり哲至さんはサラリと言った。 なんてつまらないことを言ってしまったのだろうと思ってそうして、 思った通りの・・・それはそうであって欲しい通りの・・・ その言葉にホッとする。 「オニイチャンはホント、あの人が好きだよね」 「そりゃあ運命の人だもの」 「はいはい」 さすがに呆れてそう言った。 「なんか似てきたね」 「なにが?」 すると、なんでもないと言ってふふふっと笑う。 「こんなオニイチャンでごめんね」 おまけに笑顔が残ったままで、 哲至さんはそんなことを言うからひどく驚いた。

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