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第97話 真乃斗

きっと、どうにかしなきゃいけないものなんてなにもない。 大切なことは変わることじゃなく、 このままでいいって思えることなのだ。 そうしてこのままでいいって本当に思えたとたん、 なにかが変わってしまうのだろう。 「オレ、なんだかいま、無敵って感じがする」 「なにそれ」 「なんだろ」 妙なことを言っている。 でもなんていうか、別になにも変わらなくてもどうにかなりそうで、 そうしてこの先もただ高瀬さんを想い続けて、 そうやってやっていけそうな気がするのだ。 確かに未来なんてわからない。 でも、わからないってのは可能性があるってことでもある。 目の前の、小さなキセキを見つめて、 瞬間瞬間をすごしていって、 それが気づけば未来になっていたらいい。 腕を伸ばして高瀬さんに抱き着くと、 高瀬さんはそれを拒むことなく受け入れる。 汗でしっとりする肌が触れ合うと、 それは安堵と共に妙に哀しくもなった。 でもそれは、決しておかしなことじゃない。 このぬくもりを手放したくないと思えばどうしたって、 哀しくもなるのだ。 「なんかもっかいしたい気分」 「珍しい。足りなかった?」 確かに、それは本当に珍しいことだった。 繋がりながらあんな会話をして、出さずに果てた数は知れない。 それは十分すぎるほど甘くて気持ちがよすぎたけれど、 自分の見えないナニカがより鮮明になっているいま、 充足感は過ぎると興奮が混ざってとどこか挑発的になった。 「そんなはずないって知ってるくせに。 でももっかいシてって言ったらできる?」 間近にある大きな瞳を覗き込むように見つめれば、 そのオクにはまた、ネツが宿って、 普段から年齢よりずっと若く見える高瀬さんのその表情は、 さらにその青さを増した。 「さぁ、どうかな。試してみる?」 紅く、色っぽいカタチをしたその唇が重なると、自然と瞼が閉じる。 それは見えないモノを味わうため。 見える高瀬さんと、見えない高瀬さんを見つめるために。 そうしてきっと、次に目を開けた瞬間、 自分の目の前には高瀬さんが映るのだ。 それは当たり前だったけど、その景色を大切にしようと思った。 だってこの先、長い時間をこのヒトと過ごすから。 お互いに、人生のすごく大事な一部分を分かち合うヒトだから。

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