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第98話 真乃斗
ーーー・・・
「んはよ」
その扉を開ければいつものように珈琲の香りに包まれて、
高瀬さんを中心にしてソコはすでに、休日の朝が始まっている。
「おはよう真乃斗くん」
高瀬さんの低い声が全身に響いて、オレの朝もようやく始まった。
「今朝は冷えるね」
「ん」
確かにさっきまで寒かった。
けれどこの部屋には暖房がきいていて、
いつもの席に座れば目の前に高瀬さんがいて、
だから寒さすらも幸せの象徴のような気がした。
「コーヒー淹れようか?」
高瀬さんと高瀬さんの前にあるマグカップの全体を無意識に見つめれば、
すでにカタチを失ったコーヒーの白い湯気が見える気がする。
そうして、なんというか高瀬さんのこういうところがいいなと思う。
休日も平日も変わらず、丁寧に朝を、日常を過ごすところ。
なんというか、育ちの良さみたいなものが見え隠れして、
そういう姿はオレをホッとさせるのだ。
「はぁ・・・腰痛い」
高瀬さんからの提案を無視して思わずポロリとそんなことを口走れば
「どうして?」
と、とぼけてそんなことを言われた。
「あ、そういうこと言う?」
そうして、上品な顔立ちが一瞬、オトコの顔になる。
瞳の奥にネツが宿って、口元がニヤリとする、
それは昨日の夜にさんざん見た顔だった。
「ねだったのは真乃斗くんだよ」
朝からしれっとそんなことを言う高瀬さんに、
上品な顔立ちをしてるくせにあんなセックスをする高瀬さんを見つめると、
眠る数時間前の高瀬さんのあんな顔やそんな仕草や、
自分にかけられた言葉たちの淫らでイヤらしいイロイロを思い出して、
思わずはぁっと息を漏らした。
そして、そこから意識をずらそうと出てきた言葉は
「タピオカ飲みたい」
だった。
「ぇえ?こんな時間に?こんなに寒いのに?」
今度はどこかわざとじゃないかってくらいに大きな声を出して
驚く高瀬さんに笑う。
よくよく見ればこのヒトは、表情がコロコロ変わる人なのだ。
「もう夏じゃないよ」
「でも飲みたいんだよ。
コタツでアイス食べるのって美味しいじゃん」
それと同じだと言って口を尖らせれば、高瀬さんは決してイヤそうでなく、
やれやれって顔をする。
それはオレを好きだってカオだ。
オレを愛しいと思ってるカオ。
オニイチャンが恋人を想う顔と同じだった。
「じゃあ買いに行く?」
だからオレは少しだけつけ上がる。
高瀬さんにだけは、
そういう自分を晒していいって思っているのだ。
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