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苦界の蓮華

「ぽはぁッ」  布団の上に寝そべって天井を仰ぎ、煙管(きせる)で吸い込んだ煙を丸く吐く。 「おおっ!」  吐いた煙が円となって昇っていく。  上手い円が出来ると1人で感嘆して、繰り返し円を作って天井に吐く。  天井は格子状に区切られ1つ1つが違う色とりどりの絵が描かれている。  それは極彩色で描かれており世の中の美しい物をかき集めて描いてある。 「失礼致し…ちょっ!」    襖が静かに開くと正座をし部屋に素早く入ってきた。  あられも無い姿にいつものことながら飽きれる。 「あぁ?」  視線だけ向ける。静かに入ってきた男は小脇に籠を抱えている。  素早く中に入って戸を締める。人物を確認して尚、暢気に天井に向けて円を作っている。 「ちょっと、太夫何してんですかぃ。そんなあられもねぇ姿で」  寝そべっている人物は、着物が身体から肌け、磁器のような艶やかな肌をあられもなく晒している。下半身は淡い色の湯巻だけをかけているだけ。太夫が動かないので入ってきた襖の前から正座で待機する。 「別に同じもんついてんだし、湯あみの時に散々見たろ?」  そうことじゃねぇよと、ため息をつく。  部屋は、お手玉やら将棋の駒やら、着物やら肌着やら簪やらが散乱して散らかり放題だ。 「はいはい…もうすぐ大門に明かりが灯りますから、しゃんと支度始めますよ」  小言を言うと、渋々しなやかな背骨と柔らかな肉付きの上体を起こす。 「んぁあ〜…めんどくせぇなぁ…」  煙管を煙草盆に苛立ち紛れに叩きつけて、勢い良く火を落とす。  開け放っている窓は薄暗くなり始めている夕の空。  雲の影が赤く染まり、明るく星が遠くに輝く。白んだ月も大きく映える。  投げ出していた白い足を組んで胡座をかく。はらりと湯巻が乱れて下半身さえ露になる。 「ちょっと!商売道具が見えてますよ」  太夫にそういうと、隠そうともせず欠伸をする。 「うっせぇな…夜蝶(やちる) お前は、オレの母ちゃんか」  口の悪い太夫は、この街では異端の存在。  名前を――――――

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