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苦海の金魚 -二-

「わかった!それだけはやめてっ!いうから!いうからっ!!…んんんぁっ!」  男の片手の掌で収まってしまうほど小さな横顔を強引に押さえつけて片側の耳に舌を入れる。 「ぃやぁあっ!!」  小さな顎が浮いて嬌声が漏れる。 「んやぁっ…っ」  クチュクチュと卑猥な音が頭の中に鳴り響く。  耳腔に入れられた舌が、たっぷりと絡んだ唾液と共に形の良い耳の軟骨を丁寧になぞる。  隆起した耳の軟骨へ丁寧に舌を這わせ、耳朶を食むと彼の口から甘い吐息が漏れる。それさえも、脳内に響き渡り、逃げ場がなく音が籠る。彼は耳を舐められるのが弱いのだ。こうして濃厚に舐められると、背中がゾクゾクと泡立つ。彼の頬が音による刺激で艶やかに染まる。絹を裂いたような甘い声が並びの良い歯から部屋中に広がる。 「やぁっ、んッ、ってッ!…ぁはんっ!」  耳朶をわざとチュルチュルと音を立てて吸われる。足をバタつかせて悶えるが、あまり暴れると足を机にぶつけるのでそれも叶わない。せめて、男から逃れようと腕を掴むが、太い腕は彼の2倍ほどあるので力も敵わない。顔を背けて逃れようとしても叶わない要するに四方八方を塞がれている状態だ。 「んぁっ…ひぁあ、っんん!」  腰から抜けていく力を押さえ込もうとして身体中に力を入れる。  けれど、意思に反して抜けていく。尾骶骨が徐々に熱くなり始める。 「ふぁっ…」  もう少し長かったら、確実に性器が反応していたところだったが、寸でのところで舌が抜かれる。思わず、ホッとして吐息が漏れる。 「落ち着いたか?」 「…うん」  男は至って冷静だった。ゴクリと唾液を飲む音が生めかしい。  熱烈に舌が耳腔を舐っていたのに、息を乱すこともなく、痴態を見て無様に興奮することもない。コクリと頷いた彼から力を緩める。 「…」  頭の中に、まだクチュクチュという卑猥な音が響いている気がしてクラクラした。  舐められた耳に触ると、しっとりとした彼の唾液を感じて、すぐに蒸発しそうなほど熱を耳が帯びている。男が胡座をかいて腕を広げたので、その中にすっぽり治るように身を寄せる。 「…御免なさい」  素直に謝罪する 「なに怒ってたんだ?」  男は彼がすっぽりと治ると小さな頭に触れる。艶やかな髪は長めで彼の肩につくか、つかないかの長さだ。男らしさのない細い毛質。この髪の長さは彼が房事の際に扱いやすい長さになっているらしい。遊女にしては髪は短い方だと言える。男に抱かれる際に、自らの髪を踏んで萎える事を予防しているそうだ。   「…」  男の無骨な指が、掴んだら潰してしまいそうな小さな頭を撫でる。言いづらそうに口籠った彼は小さな声で呟く。聞こえて欲しくないと思うが、静かで、狭い室内にいるのはたった2人。聞こえないわけがない。 「……年増で童貞の俺なんて、いらないって言われてると思って…」  男は、キョトンとした。その男の反応に罰の悪さを感じた彼は視線を伏せたままだった。 「は?」   彼は、この妓楼の花魁で傾城の名をほしいままにしている。次期太夫という声も多いが、彼はそれを望んでいない。出会った頃から未だ変わらず彼は女郎だ。太夫になれば、様々な自由が効き、その名から多くの客が彼の名声に近寄ってくる。まるで、花の蜜に寄せられる蝶のようだと人はいうが、傷口に集る(はえ)の間違いだろうと彼は嘲笑う。もしくは死骸に集る蛆虫(うじむし)

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