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ふたりきりの教室

 前世で騎士だった俺は現代日本にごく普通の一般家庭の一人息子、栗島亜紀として生まれ変わった。  仕えていた愛するクレール王子は悪魔の毒で命を落とした。その王子も呉谷ひなたとして同じ世界に生まれ変わり、俺はひなたの幼なじみとなった。  本日は晴れて高校の入学式。  朝からブレザー姿のひなたを拝んで感動の涙を流し、ひなたと過ごす楽しい高校生活が始まる……  はずだったのに。  俺は何故か王子を毒殺した仇である悪魔と教室で2人きりになっていた。 遡ること数十分前…… 「あっ、亜紀と同じクラス!」 「ほんとだ! めちゃくちゃ嬉しい!」 「俺も嬉しいよ」  声高に喜ぶと、100000000点の笑顔が返ってくる。眩しい。  火照る身体が止まらない。これで1年間ひなたとずっと一緒にいれるし、守れる。  昇降口に張り出されたクラス割を心の中で拝んだ。  現代においてクラス替えは厄介でしかない。幸い小中高と離れたのは1回だけだったけど。その時は大変だったな……主に俺の精神状態が。 「俺もおんなじだよ」 「……は?」  隣で同じくクラス割を見た悪魔はにっこりと笑う。舞い上がった気持ちは一気に冷めていく。俺の気持ちとは裏腹にひなたの表情はぱっと明るくなった。 「お前もか! じゃあ一緒に教室行こうぜ」  ひなたは足取り軽く廊下の表示を見て1年の教室の方へ歩いていく。  ひなたは率先力がある。人を引っ張っていくのが上手い。王子のころからそうだ。いつのまにか先に先に進んで、そのまま何処かに行ってしまいそうな危うさも感じる。  慌てて追いかけながら悠長についてくる悪魔の方を振り返る。 「お前、クラス割仕組んだろ」 「さーてどうでしょうねえ」  このはぐらかし方、絶対仕組んでやがる……!   こいつは毒以外にも何か力を隠し持っているはずだ。悪魔のことはわからない。あの時初めて遭遇したし、能力を知る前に倒したからな…… 「ふふ、人間の高校生活かあ……楽しみだな」 「なにが……!? どこが……!?」 「仲良く!」  階段を上りながら振り向いたひなたの声に、掴みかかろうとした手を止めた。 「おっ、1番乗り! ってリハのために早めに来たから当たり前だけど」  意気揚々とドアを開けて楽しそうにしてるひなた、めちゃくちゃかわいい…… 「亜紀までわざわざ一緒に来なくてよかったのに。もうちょっと寝れたぞ?」 「俺が一緒に来たかったからいいの」 「そっか~亜紀はほんと俺のこと好きだなあ」  !?!?!?!? 「ゲホッ ゴホ……あ、はは……うん……」  勢いでむせた。なにその顔……!  いや、ひなたが言ってるのは親友として、だ。バレてない、俺の好きが前世から続く恋愛感情だってのはバレてな…… 「動揺えげつな。わかりやす。俺がいることも忘れないでね~♡」  揶揄いながら俺とひなたの間に割り込んでくる。悪戯に舌を出す様が鼻につく。  めちゃくちゃいい雰囲気だったのに! こいつ、マジで邪魔……! 「あっ、俺そろそろ体育館に行かないと。亜紀、この荷物俺の机に置いておいてくれ」 「えっ」 「集合時間までまだあるし、ゆっくり2人で話してろよ。せっかく同じクラスになったんだからさ!」  こいつとふたりっきり!? 「待っ、ひなた……!」 「じゃあまた後で!」 「いってらっしゃ~い♡」  ーー爽やかな笑顔で手を振るひなたを見送り、今に至る。 「座る席まで決められてるのか……人間ってルールに縛られて面倒だと思わない?」 「決められていないと逆に面倒なこともある」  席順は黒板に書かれていた。俺は窓側から2列目の後ろから2番目。ひなたが1番後ろ。栗島と呉谷、出席番号に並ぶと俺とひなたは必ず前後になる。それも運命だと思っている。 「新入生代表ね……生まれ変わっても優秀なんだ。あんたのご主人サマは」 「何様だ。王子とひなたのこと何も知らないくせにでかい口を叩くな」  悪魔は当たり前のように俺の左後ろ……ひなたの隣の席に座った。 「お前がひなたの隣とか最悪……マジ滅べ、ひなたに何かしたらただじゃおかない」 「殺さないって言ってるじゃん。俺の名字、桜花なんだから近いに決まってるでしょ」 「それも仕組んだな……!?」  どうだか、とイスの背にもたれかかり、ニヤニヤと笑っている。 「桜花、なんて綺麗な名字を悪魔が気まぐれで使うな。桜が可哀想だ。死んで償え」 「ほんっと王子サマのいないところでは口悪いんだから。だって綺麗だったんだもん、いいじゃん」  悪魔は頬杖をつき窓からグラウンドの向こう……風に揺れて散っている桜を見つめていた。 「空気も澱んでて人間も多くて嫌な場所だって思ったけど……桜は綺麗だ。俺、気に入っちゃった」 「悪魔でもそんなこと思うんだな」 「すぐ散っちゃうところも、人間の儚い命みたいで好きだなあ」  殴るのを我慢して頰を思いっきりつねってやった。陶器みたいに白い頰はよく伸びた。 「桜に謝れ」 「ひひゃいひひゃい! あふまれもひゃんとつうかくはあるんらよ!(悪魔でもちゃんと痛覚はあるんだよ!)」 「殴らないだけマシと思え」 「殴れないの間違いでしょ! せんせーに見られたりしたら退学になっちゃうもんねえ!」  肌が白いから赤くなった頰がよく映えていて、ざまあみろと思ったが、それもすぐに治っていた。 「そういえば……前にあんたたちのいた世界も、花が綺麗だったね」 「お前に言われると腹が立つな。本当に何様だ」 「綺麗なもんは好きなんだよ。だから覚えてる」  あの王国は、花がたくさん咲いていた。  城下町の花壇にも、町の外にも。花を売っている店もたくさんあった。今となっては花の種類は思い出せないけど……  もちろん城の中にも大きな庭園や温室があり、たくさんの種類の花があった。  クレール王子は花がお好きだった。花を見る王子の可憐な笑顔といったら…… 「ねえ、浸ってるとこだけど、せっかく2人きりになれたんだ。王子サマの前じゃ話せないことを話そうよ」

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