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全てを見透かす赤い目

 のらりくらりとした口ぶりだった悪魔は妖艶な空気を纏っていた。 「お前と話すことなんて……」 「どうして王子サマに本当のことを言わないの?」  赤い目に全てを見透かされているようだ。 「理由は……俺の毒で苦しんで死ぬ記憶を思い出させたくないから。守れなかったことを悔いているから。王子サマの言いつけを守れずに後を追って死んだことを知られたくないから」  悪魔は見せつけるようにひとつずつ指を折っていく。笑った口元から犬歯が覗いた。 「当たり?」 「ッ……てめぇ……!」  目を細くする悪魔の胸ぐらを掴む。 「わかりやすいねえ」 「現れた本当の目的を言え。何か隠しているだろ」 「本当の目的? そんなのないよ。言ったでしょ、俺はあんたらに興味がわいたから会いに来ただけだって」  そんな理由で……!? そんな気まぐれで平和に過ごしてきた俺とひなたの日常を汚すのか……!?       ひなたには絶対、あの辛い記憶は思い出させないと誓った。  挑発の笑みに胸ぐらを掴む手にさらに力が入る。 「……っ邪魔するな! 王子はお前の気まぐれのせいで凄惨な死を迎えたんだ。あの方は、冷たい地面で死ぬような人じゃなかった! 俺は王子を守れなかった! だから親友として、ひなたを生涯かけて守ると決めた! 二度とあいつを辛い目には遭わせない。お前に手出しはさせない!」  心臓が落ち着かなくて荒く呼吸する。少しの間の後、眼前の悪魔は笑い声をあげた。 「……ふふ、あはは!」 「笑っ……」  恐ろしく愉しげな声が誰もいない教室に響く。  細い指が伸びてきてするりと俺の頰に触れた。 「その憎悪に満ちた目……! やっぱり綺麗だ。取り出して飾りたいぐらい……!」  頰に触れていた手が離れ、視界全体を覆いながら迫ってくる。  目を、取られーー 「っ! 触るな!」  思いきり突き飛ばす。よろけた悪魔が当たった机が大きな音を立てた。  気圧された。一瞬でも怯んでしまった。見た目は人間でもこいつは得体の知れない悪魔なんだ。 「ふふ、じょーだん。今は取らない。その目はあんたが死んだときに貰うことにするよ。大好きな王子サマの目玉と一緒に飾り付けてあげる。嬉しいでしょ?」 「下衆が……! 俺たちに付き纏うな!」 「俺はね、綺麗なものと楽しいことが好き。あんたらは綺麗で楽しいんだ。もっと見せてよ、その信頼関係……」  悪魔は乱れた服を直しながら机の上に足を組んで座った。 「ねえ、王子サマのこと愛してるんでしょ? せっかく身分がなくなったのに、どうして告白しないの?」  全て見えているように真っ直ぐと見つめてくる視線に寒気がした。 「お前には関係ない。黙れ」  悪魔はふふ、とご機嫌に笑った。  俺はずっと王子のことを愛していた。が、その気持ちは伝えることなく終わった。王子は俺のことをいちばんに信頼してくれていた、それを裏切れなかった。身分も違うし、王族に愛を伝えるなんてできなかったんだ。  でも今の俺とひなたは身分もなくて、同い年で、親友。性別は同じでも告白することはできるはずだ。  そうしないのは…… 「あんたが本当に愛しているのは、王子サマとひなたくん……どっちなんだろうね」  どくんと心臓が鳴った。 「それは……っ」  うまく言葉が出てこない。 「ひなただって即答しないんだね」  なんで即答できないんだ。  今ここにいるのはひなたなのに。王子は……もういないのに。 「迷い、不安、焦り……それでこそ人間だ。騎士クン……いや亜紀くん。あんたの答え、楽しみにしてるよ。あんたのご希望通り、ひなたくんに過去のことは教えないでおいてあげる」  その時、廊下からざわざわと人が歩いてくる音が聞こえ出した。 「まあ、勝手に思い出しちゃう可能性はあるけど……ふふ、そろそろ誰か来ちゃうね。またふたりっきりで話そーね♡」

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