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仲間との再会

 教室には人が集まりだし、同じ中学からの友達や、SNSで知り合った人同士で話している生徒。ひとりで席に着く生徒と様々だった。よそよそしい雰囲気が新学期を感じさせる。  この悪魔は黙って座っていても目立った。女子の黄色い声が聞こえると、にこりと手を振って、またさらにきゃあきゃあと声があがる。 「俺めちゃくちゃモテモテじゃない? 魅了はかけてないんだけどねえ……人間の女の子って単純だ」  俺の隣に立ち、座っている俺の耳もとに顔を近づけ小声で話してくる。 「話しかけんな」  虫を払うようにノールックで顔を叩こうとした手は「そうくると思ったよ」と止められた。  早くひなた戻ってこないかな……と陽だまりの笑顔を思い浮かべてため息をつく。  その時、ドサッと大きな音が聞こえた。見なくても音からして誰かが鞄を落としたんだろうと予想する。 「アルク……っ!?」 「え……っ」  ピタリと動きを止める。  何でその名前を。その名前は……もう一生呼ばれることはないと思っていた、前の俺の……  声の方に顔を向けた瞬間、誰なのかを確認する暇もなく顔面ごと抱きしめられた。 「むぐっ」 「アルク! 君、アルクだろう! こんなところで再会できるなんて運命だ! ずっとずっと会いたかった! 僕のこと、覚えている!?」  腹筋が顔にめり込む。 「痛い痛い! 誰だよ! 先に顔を見せろ!」 「あっ……昂ってつい抱き締めてしまった」  やっと硬い腹筋が離れ、息をつき相手を見上げる。  綺麗な瞳とぱちりと目が合う。 「あーーーーーーっ!!!!」 「思い出してくれた?」 「ロッカだな!?」  頭の奥の奥の引き出しが開いた。綺麗な顔も優しい声色と雰囲気も変わっていない。  うん、と嬉しそうにうなずくロッカの瞳には涙が浮かび、ぼろぼろとこぼれ落ちた。  すらっと長い両手が俺の頰をゆっくりと包む。 「ああ……アルク! 本当にアルクだ! ぐすっ……こんなに大きくなって!」  俺がひなたに言ったセリフと同じだ……  涙がかかりそうな距離まで顔を詰められる。 「な、なあロッカ……近いって……」  ふと視線に気づく。視界がほとんどロッカに遮られているが、ひそひそと聞こえる話し声は俺たちの話題だ。クラスの全員に見られている。 「しーっ、静かにしろ! めっちゃ見られてる!」 「変わっていないなあ……! アルク……もうニ度と会えないかと……ぐすっ……」 「聞け」  顔を撫でまわす手をどける。そういやこいつはこんなやつだった!  遠巻きに見ている他の生徒に聞こえないよう声を縮める。 「前世のこととか周りに説明しようがないだろ! 面倒事になるからアルクって呼ぶな! 俺は亜紀だ!」 「亜紀……綺麗な響きだ……! 僕の名前は水無月(みなづき)律佳(りつか)。……残念だけど亜紀の言う通り、他人には僕たちの関係は秘密にしておかないと……」 「誤解を招くような言い方はやめろ」  ベタベタと引っ付いてくる律佳……前世の名前はロッカ。こいつはかつて俺と同じ騎士団にいた仲間。俺より少し先に騎士団にいて、とても強かった。でも気づいた頃から何故かすごく構われていたし、俺への態度が激甘だった。それも変わってない。  最期の記憶が焼きついて王子と悪魔以外思い出さなかったが、まさか俺とひなた以外にこの世界に生まれ変わりがいるなんて。しかも同じクラス、偶然すぎる。 「君も生まれ変わっていたとしたらまた会えるかもしれないって、前世を思い出してからずっとアルクのことを考えていたよ」 「はは……そっか」  ごめん、ロッカのこと思い出したの今だ。 「……アルクとクレール王子が変死をしたあの日から、色を失った毎日だった。あれからとても大変で……」 「変死!?」  そうか……悪魔の毒なんてわかりようがない。悪魔の存在は噂程度にしか聞いたことがなかった。変死と処理されるのが当たり前か…… 「ここじゃ込み入った話はできない。後で詳しく教えてくれないか。王子と俺が死んでから、国がどうなったのか……ちゃんと知りたい。俺はあの日全てを投げ出してしまったから……」 「それはいいけど……全てを投げ出したって?」 「おふたりはどーいう関係?」  小声で話していたのに、聞いてるやつがいた……  話を遮った悪魔は楽しそうに背後から顔を出し、俺の肩に手を置き、体を引き寄せた。白い手の甲を思いっきりつねると「いった……!」と、こもった声が聞こえた。 「なっ、触っ……! ゴホン、君こそ亜紀とどういう関係なんだ」  律佳は顔を歪めた。  つねっても離れないので無理やり悪魔の胸を押し返していると急に顎に手を添えられる。 「亜紀くんはぁ……俺のおもちゃ♡」  ニヤリと笑った悪魔の顔。   同時に頬に柔らかいものが触れ、律佳に見せつけるようにリップ音が響いた。 「っ……!?!?」  何が起こったか理解に時間がかかった。  声にならず思いっきり目を開けて悪魔を見つめると、長い犬歯を覗かせてさらに口角をあげた。  ゾワゾワと悪寒が全身を流れ、力いっぱい押しのける。 「あら、思ったよりかわいい反応だ。顔真っ青だよ、亜紀くん♡」 「おっ……まえ……!! 気持ち悪! なにすんだいきなり!! バカ!アホ!」 「語彙力なくなってるよ」  なんだこいつは、何がしたいんだ……!? 「アルク!!!」  今度は律佳が飛びついてきて、悪魔にキスされた(認めたくないけど)頰をとんでもない速さでゴシゴシと擦る。 「律佳、痛いって! 摩擦熱!」 「はっ、ごめんねアルク、あまりのことに躍起になってしまった……いや亜紀!! 本当になんなんだこの失礼な奴は!?」  律佳はにやにやしている悪魔を指さし、眉をつり上げて肩を震わせている。怒ってるこいつを見ていると一周まわって冷静になってきた。  隠す必要もないか……味方は多い方がいい。こいつを倒す方法、一緒に考えてもらおう。 「……こいつは、クレール王子の死因。こんな格好してるけど悪魔だ」 「ご紹介に預かりました悪魔でーす♡ この姿では桜花魔斗っていうんだ。よろしくね、ロッカくん……あ、律佳くんのほうがいいかな?」  隣で悪魔はムカつく顔で自己紹介を終えてピースしている。  律佳はピタリと固まった。

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