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第3話

#シロ 「け~っきょく来ちゃうんだから、まったく!桜二は誰かに似て素直じゃないんだ!」 オレは階段を上がりながら、ずっとこっちを見つめて来る桜二を、ニヤニヤしながら見つめ返した。そして、前を歩く支配人の背中をバシバシ叩いて、ひとりで興奮した。 か~~~っ!全く…カッコいいんだから!! ビシッと決めた体にジャストサイズのスーツは、良い男の条件のひとつだ。 後は…足の長さと、引き締まったお尻。 十分な胸筋と、太い二の腕…小さな頭に、癖っ毛の髪なんて…ご褒美だ。 そして、何よりも…その鋭い目が、好き! 好き!好き!好き~~!だだだだだ、大好き~~! 「ねえ、新しい子はいつ来るの?」 エントランスに上がったオレは、支配人に首を傾げてそう尋ねた。すると、彼は同じ様に首を傾げてこう言った。 「…もう下に来てる。」 へぇ… 口を尖らせて頷いたオレに、支配人はジト目を向けてこんな事を言った。 「シロ!お前、絶対…手を出すなよ?」 どういう事だよっ! まったく…やんなるね? 呆れた様に首を横に振ったオレは、支配人のジト目を鼻で笑ってこう言った。 「馬鹿野郎だな?オレのタイプ知ってるだろ?普通じゃないのが好きなんだ!」 そう、普通じゃない男が好きなんだ。 癖があって…近寄りがたくて、手懐けづらい…そんな男が、好き。 「えぇ~!ほんとぉ~?すっごぉ~い!」 地下への階段を下りながら、控室から漏れ聞こえて来た楓の余所行きの声に、思わずクスクス笑った。 釘を差すならオレにじゃなくて、楓にするべきだ! 控室の扉を開いたオレは、すっかり鼻の下を伸ばしている楓を見つめて、吹き出して笑った。 「楓ちゃん、どうしたの!」 「シロ~~!めっちゃ、イケメンなの~~!」 大興奮した楓が指さす先には、確かに…爽やかなイケメンが居た。 「わぁ…本当に、イケメンだね。」 身長180センチ弱。体重は分からない。スポーツでもしてそうな引き締まった体は、ストリップなんてしたら、女性客が失神しそうなくらい魅力的だった。 オレは、そんな爽やかイケメンを下から上まで舐める様に見て、頷いて言った。 「君がSMとかやったら…女性客が大喜びするだろうね?」 そんなオレの言葉に苦笑いした彼は、大げさに頭を下げてこう言った。 「ども…今日からお世話になります…!」 姿勢の良さは、体育会系の名残かな…?ピンと指先まで力の入ったお辞儀の様子に、オレは恐縮してこう言った。 「そ、そんな…お辞儀なんてしなくて良いよ…。オレはシロだよ?君は、何て名前なの?」 そんなオレの言葉に、爽やかな笑顔を向けた彼はハキハキと言った。 「仁(ひとし)です!シロさん!お世話になります!!」 …お世話は、きっと…楓がしてくれるよ。 「…ね、どうして?」 「え…?」 オレは仁くんを見つめて首を傾げて聞いた。 「どうして、君みたいな爽やかイケメンが、この店で脱ごうなんて思ったの…?」 仁くんは困った様に眉を下げて、モゴモゴと言葉を濁してこう言った。 「…あぁ、何となく…」 何となく…? そんな理由で、人前で脱ぎたくなるの…? 「良いじゃん!放っといてよっ!この、脱ぎたがりっ!」 仁くんを射る様な目つきで見つめるオレを押しのけて、楓はスリスリと彼の胸板に頬ずりしてこう言った。 「ほんま、プリップリやねん!」 ふん…! 「依冬の方が、もっと…」 「はい、ステージが始まるよ?行った!行った!」 楓に言葉を遮られたオレは、口を尖らせながらカーテンの前へと追いやられた。 何となく…ね… 大喜びする楓の声を背中に聞きながら、オレは少しだけ眉を顰めてカーテンを見つめた。 何となく…なんて理由で、爽やかイケメンが脱ぐのかな…? 生地の織り目を眺めながら考えあぐねていると、カーテンの向こうで大音量の音楽が流れ始めた。 すぐに気持ちを切り替えたオレは、首を伸ばしてスタンバイした。 そして、いつもの様に…目の前のカーテンが開いて、真っ白に色が飛んだ明るいステージを目の前に映すから、オレは、迷う事無く、満面の笑顔を顔に張り付けて、歩いて向かうんだ。 「シロ~~~~!」 “人妻”なんてイメージが一瞬だけ付いてしまったけど、オレは、すっかり…そんな物を払拭する事に成功したんだ。 オレは、ステージの上からお客をぐるりと見まわして、ファーストインパクトをかました。 跪いて四つん這いになったオレは、猫の様に背中をしならせて、お尻を突き上げて横に振って見せた。 「猫ちゃ~~~ん!」 そうだ。猫ちゃんだ! お客の歓声に口元を緩めたオレは、膝立ちしながら体をくねらせて、いやらしく両手で自分の体を撫で下ろして行った。 見てよ…オレの腰、いやらしく動くだろ…?中に入れたら…もっと気持ち良いぜ? そんな思いを込めながら、目の前のお客を見つめた。 どんどん顔を赤らめて行くその様子が…堪らなく、おかしくて、大好きだ… ふと視線を移すと、楓に手を引かれた仁くんが階段を下りてくる姿を見つけた。 年齢…推定25歳。 身長…180センチ弱。 着ている身なり、整えられた髪型から、生活に困っている様子はない。 そんな君が、どうして、何となく…なんて理由で、ストリッパーを目指すの? 物の受け答えも十分に出来るし、やけに堅苦しい物言いは…スポーツマンというより、まるで、年功序列の厳しい会社員の様だった。 つまり、こんな世界には慣れていない様に見えたんだ。 そんな君が、どうしてここに居るのさ… そんな彼を横目に見ながら、オレは自分のシャツのボタンに手を掛けて、上からひとつひとつ外して行った。 喘ぐ様に口を開いて仰け反りながら、体の曲線をシャツから覗かせたオレは、ゆっくりと体を起こしてポールを掴んだ。 見る…? これが君の仕事になるよ…? 足をゆっくりとポールに沿わせて上げたオレは、膝の裏にねっとりとポールを絡めながら体を持ち上げて行った。 それは、決してスピーディーでも、強いインパクトでもない。 まるで、ずっと一緒に居る男に甘える時みたいに…自然で、当然で、ぎこちなさも、躊躇もないんだ。 「シロ~~!」 ポールの上部まで登ったオレは、片手で体を支えて、体をのけ反らせながらシャツを肩から落とした。 そして剥き出しになった体をポールに沿わせて、感じてるみたいに口を喘がせて腰を捩った。 ここから見える…カウンターに座る桜二を見つめて、彼を誘惑する様に、可愛く体を捩らせて、自分の乳首を撫でて立たせた。 桜二…大好き…! オレを触ってよ、オレを撫でてよ、オレを…愛してよ…! 発情した気持ちのまま、うっとりと瞳を潤ませたオレは、両足を纏めて回転をかけた。 そして、ポールの脇に体を固定して、短パンをお尻の下まで下げて、可愛い桃尻を見せつけた。 「きゃ~~~~!シロ~~~!そ、そのパンツはぁ~~~!」 さすが、女性はお目が高いんだ! オレのこのパンツに言及してくれた! そうさ…今日のとっておきは、短パンでも、シャツでもない… このパンツだ! ゲイのAVでよく見る様なこのパンツ… もっこり部分が立体構造で、勃起すると良く分かるんだ。 布の面積が極端に少なくって…こんな風にお尻を持ち上げると、割れ目が少し見えてしまう… そ、そんな、危ない…パンツなんだぁ! ちなみに、依冬が通販で買ってくれた。バリバリの…私物だ! 「んがぁ~~~~~!シロ~~~!」 興奮するお客に吹き出しそうなのを我慢して、オレは、そんなもっこりを存分に見せつけながらポールを回った。 「舐めたい~~~!」 あんまり露骨にそんな事を言うと、出禁になるよ? そんな心配をしながら、オレはポールに逆さに掴まって、にっこりと笑いながら両足を縦に開いてギリギリを責めた。 「見えそで、見えない!」 「ぷぷっ!」 …それを狙ってんだよっ! お客の声にケラケラ笑ったオレは、そのまま膝の裏でポールを挟んで体を起こした。そして、派手に回転しながらステージまで降りて、お尻を突き出しながら再び猫ちゃんポーズを取った。 「猫ちゃ~~ん!好き~~!」 オレも、小さい頃から猫は好き… ズルくて…そっけない。でも、あったかい…そんな猫が好き。 際どいパンツの脇にチップを挟んで貰って、頬にキスを貰って、いつもの様に、ステージに仰向けになるお客を見下ろして、1人づつ口からチップを貰って行く。 その中に、仁くんの姿を見つけたオレは、楓がニヤ付く中…彼に近づいて行った。 「はぁ…君には、こんな事…出来るなんて思えないよ…」 オレは眉を下げて、仁くんの顔を覗き込んでそう言った。 でも、彼は…オレの予想を裏切って、表情も変えずにオレを見上げて、口元を緩めて笑った。 胸ポケットに差さったままのボールペンが落ちない様に手で押さえてるのは…彼の真面目さの表れなのか…? へぇ… そんな彼の頬を手の甲で撫でながら、オレは、口に咥えられたチップを受け取る為に体を屈めた。そして、ニヤッと上がった彼の口元を見つめながら、そっと小さな声で言った。 「…仁くん。君は、何のためにここに来たの…?」 そんなオレの言葉に、仁くんは瞳を大きく開いてオレを見つめて笑った。 この子…少しだけ、依冬に似てる… 彼の口からチップを受け取ったオレは、絶叫する楓を横目に、体をゆっくりと起こして真下の彼を見下ろして首を傾げた。 この子は…何だか、怪しい… 「猫ちゃん…」 ポツリと仁くんがそう言った。 そんな彼を無視したオレは、そのまま華麗にバク宙してステージを終えた。 今日のオレのステージは、猫のポーズが印象に残ったみたいだ… #勇吾 桜ちゃんの煽り癖はヤバい…あいつは、相変わらずの暴れん坊だった… …シロの事となると、桜ちゃんはリミッターを外して全力で取り組んでしまう様だ。 ヤクザに計画なしに喧嘩を売りに行くんだもん。 もっと…スマートに行けないもんかね…? あれじゃ、自分の方から、顔を覚えられに行った様なもんだ… つまり、単細胞だって事さ。 「勇吾、次の打ち合わせ…いつって言ってたっけぇ…?」 オフィスを出た俺に、ショーンがそう声をかけて来た。 自分の手元の携帯でスケジュールを確認した俺は、目の前のショーンを上目遣いに見て言った。 「夜の…8時だってさ。」 「まじか…困ったな…あぁ、困ったな…どうしようかな…困ったな。」 こんな時、彼は、大抵、俺に聞いて欲しいんだ… どうかしたの?って… だから、俺はあえてその言葉を言わないでおくんだ。 意地悪じゃないさ… 「じゃあな…」 俺は、ショーンを横目に見てそう言った。 そして、彼が俺を睨み付けるのをニヤニヤしながら見つめ返して、踵を返して外へ向かった。 全く… 俺は、3カ月後に控えた…結婚記念日をお祝いする準備で忙しいんだよ。 2周年目の今回は、いったい何をプレゼントしようか… 前回は、日本まで行った。 あの子の店で、サプライズをしたんだ。 用意したのは真っ赤なリボンが付いてる大きな箱だ。 リボンを解くと箱が展開して…俺が中から登場する仕掛けになってた。 俺は、ストリップショーが始まるほんの数分前にステージにスタンバイして、あの子の登場を待ちわびた。 大音量の音楽が聴こえて、すぐにあの子の驚く声が聴こえた…俺は、箱の中で、クスクス笑いながらリボンが解かれるのを待ったんだ。 そして、目の前が明るく開けた瞬間…お客に頼んだクラッカーを鳴らさせて、俺は箱の中から登場して見せた! 「たら~~ん!」 そう言ってデンドロビウムの花束を差し出した俺に、シロは満面の笑顔で言ったんだ。 「勇吾~~!大好きだぁ~~!」 ふふ、あの時のシロの驚いた顔は、とても、可愛かったな… 結婚なんて…自分がするとは思わなかった。 でも、いざしてみると…とても良い。 こんな風に、ふたりだけの記念日があるんだ。最高だろ…? ただ…シロには思わぬファンが付いていた。 超ド級の変態だ… チッパーズが俺と一緒にやり玉にあがっている所を見ると…きっと、あいつはチッパーズのYouTubeのチャンネルを見て、何かが気に入らなかったんだろうな。 シロのアグレッシブなストリップがタダで見られるって言うのに…何が気に入らないんだか! 「さてと…今年は何にしようかな…」 マジックショップの前で立ち止まった俺は、腰ほどの背の高さの子供たちが、ネタバレ上等でマジックを披露しあう様子を見つめて首を傾げた。 この位の年の子に…セックスしようなんて、思うか…? 絶対、無理だね。だって…汗臭そうじゃないか。 それに、色々汚そうだし…前歯も生えそろってない… でも シロなら… 動画の中の、あの子だったら…抱けるかもしれない。 …あの子は、妙な色気があるんだ。 大きな男に後ろから腰を持ち上げられた時に見せた…クッタリとベッドに項垂れる体と、惚けた官能的な表情は、もはや、子供の物では無かった。 まるで快感に溺れる…娼婦の様だった。 それが…堪らなく、良かった… 「あんた、知ってる!ユーゴだろ?ユーゴはマジックするの?」 「しない。」 気軽に声をかけて来た子供を一蹴した俺は、踵を返してマジックショップを後にした。 シロが喜ぶものなんて…はっ!俺の一択だろうな。 ただ、去年と同じだったら、つまらないだろ…? もっと、衝撃的で、ドラマティックでなくっちゃ。 …印象になんて残らない。 「ん…?」 あてもなく街を徘徊する俺に、ショーンから電話が入った… 「もしもし…?」 「…勇吾、すぐ、急いで戻って来てくれっ!」 電話の向こうのショーンは、ひどく困った様な悲鳴を上げた。 …何だ…? 首を傾げながら踵を返した俺は、来た道をトボトボと戻り始めた。 「…な、なんだこれは…」 俺の事務所兼スタジオの前の道路には、大量の牛が溢れかえっていた。 みんな好き勝手に粗相するもんだから、匂いが堪ったもんじゃない… 「業者が…発注を受けたからって、置いて行ったんだ!頼んで無いって言ってんのに、こんな街中に…。もう…。勇吾…この牛、どうする…?」 ほとほと困り果てた様子のショーンは、しきりに腕時計を気にしながら言った。 「あ~!困ったぁ!8時から打ち合わせがあるって言うのに…!俺は、6時からディナーの予定を入れてしまったんだぁ!あぁ、参ったなぁ…!うちの親戚に酪農家がいるけど、参ったなぁ!2時間くらいで、ここまで来れると思うけど、あぁ…参ったなぁ!」 ショーンは、どさくさに紛れて、8時からの打ち合わせをバックレるつもりだ。 この臭い牛の処理と引き換えに、目を瞑れと言ってる… 遠回しだろ? これは、文学好きあるあるなのかな… 心情を察して推し量らせたがるんだ。 「うるさい奴だな…。だったら、ディナーに行けばいい。この牛の始末は任せたぞ。」 こんな風に話してる最中も、下剤でも飲まされたのか…牛は躊躇する事なくあちこちで粗相をした。 事務所の入り口でそんな様子を伺っているスタッフを見つめた俺は、手招きしながら言った。 「うんこ掃除してよ…」 「はっ!そんなの、契約書に書いてない!」 シビアだな… 美味しい所は一緒に摘んで、汚い所には顔を逸らすんだ… 日本人だったら、喜んで掃除してくれるのにさ。 新手の嫌がらせに首を傾げた俺は、天を見上げて、新鮮な空気を鼻の奥に届けた。 「ほら、勇吾…お前宛だとさ…業者が置いて行った。」 そう言ってショーンに手渡された納品書には、喜多川歌麿の描いた様な…猫の絵が描かれていた。 へぇ… 3匹の猫ちゃんが、俺の事務所兼スタジオに、微妙な嫌がらせでダイレクトアタックを仕掛けて来た。 「…被害届を、出そう…」 顔を歪めるショーンにそう言うと、俺は、体に家畜の匂いを纏わり付かせながら自分のオフィスへと向かった。 「くさ…勇吾、くさ…!」 そんなスタッフのヒソヒソ声をスルーして、オフィスの扉を閉めた。 俺は、自分の体に沁みついた匂いに眉を顰めながら、納品書に描かれた猫の絵を写真に撮って、こんな本文と一緒にボー君へと送信した。 “事務所の前に生きてる牛がばらまかれた。まさかとは思うけど、この嫌がらせはチッパーズの仕業ではないよな…?この納品書から発注者を特定して、発注した日付と、方法を知らせろ。” シロには言ってないけど、俺は、チッパーズを私的利用してる。 今までも何回もお世話になってる。 インターネット上で誹謗中傷する匿名の投稿者の居所を掴んで裁判を起こしたり、こんな嫌がらせの発注者を突き止めて、損害賠償を請求したりしてる。 ただでさえ、俺はよくこういう目に遭うんだ。 毎月、お給料を支払ってる分、働いて貰ってんのさ… ”了解“ ボー君からの返信を確認した俺は、ため息を吐きながら猫の絵を見つめた。 こんなちんけな嫌がらせをして…何が狙いだよ。 俺がシロを手放すとでも思ってるのかな…? それとも、お前の居場所は分かってるとでも、言いたいのかな…? 「俺はな、こんなの…慣れてんだよ。ば~か。」 実際そうだ… 一番ひどい時は、目の前に巨大プールが設営された時だ… どこからともなく現れた近所の子供たちが、わいのわいのと水着で遊び始めた。 そして、濡れた体のまま俺の事務所に入って来て、従業員用のトイレを占領したんだ。 エントランスからトイレまでの動線が水浸しにされて、足を滑らせて転んだスタッフが手首を骨折して、労災を申請した。 しかも…4件もだ! あの時は…流石に、落ち込んだ。 オフィスのソファに腰かけた俺は、体に付いた匂いを嗅がないように口呼吸した。すると、手元の携帯電話が震えて、ボー君からのメールを受け取った。 “チッパーズは、ブードゥーを止めました。あらぬ疑いはお互いの信頼関係を損ねます。報告です。納品書からでは追跡不能でした。ただ、業者の通電履歴を漁った所…発注時間から浮かび上がりました。こちらの番号から注文が来た様です。××―××××…呉服問屋の名目で電話番号が登録されていました。ご確認ください。” よし! ボー君は、仕事が早いんだぁ~!! 俺は、早速、その呉服問屋名義でピザを50枚注文した。 そして、カタログで、健康器具と、万能包丁10本セットを注文した。 ついでに、子供の英会話教材と、知育教材と、真剣なゼミにも登録して、危ない掲示板に“家出してマス。支援募集…!”なんて投稿と一緒に、電話番号を乗せてやった。 「はぁ…馬鹿め…!」 ひとしきり復讐を果たした俺は、肩を落としながら、窓の外でモーモー鳴き続ける牛の鳴き声を聴いた。 ロリコンの変態ヤクザ…“3匹の猫ちゃん”は、遠方に離れた俺の事務所にまで、下らない嫌がらせという…コンタクトを取って来た。 わざわざ猫の絵を描いたのは、自分の存在を誇示するためだ。 …俺はお前の拠点を知ってんだぜ? そんなメッセージが込められた、ジャブだ。 …ある意味、脅しだ。 まるで、シロに付いた俺を、必死に払い落とそうとしてるみたいだ… ただ、相手が悪かったね…俺は、神経が図太いんだ。 …お前の居所なんて、こっちからだって丸見えだぜ?って、お返ししてやった。 うちには、優秀なハッカーが付いてる。 俺の部下じゃないけど…俺の管轄下ではある。 リモートでの撃退は、お手の物さ…馬鹿野郎。 なあ、3匹の猫ちゃん。 俺を追い払った後釜に就くつもりなの…? シロの隣に…行くつもりなの…? だとしたら、おめでた過ぎて…笑える。 あの子の周りには、危ない男が居るんだ。 お前が近付く事なんて、出来ないよ。 #桜二 12:00のシロのステージがそろそろ始まる… あの人が控室に向かったのを確認した俺は、さりげなく階段を上って、エントランスの支配人に言った。 「…マル暴、来たかな…?」 「はっ!物騒な旦那だ!パトカーが巡回し始めた。きっと、街角に立ちんぼしてる。おかげさまで、周りの店が、品行方正に商売し始めたよ!」 しっかり駐禁の紙が貼られた俺の車の後ろには、先程のロールスロイスの姿は無かった。 ひとまず、退散…と言った所か… 「あぁ…!どうだった?お兄さん、働いてみる気になったかい?それとも、ちょっと…何か…違う!って、感じだったかい?」 俺から視線を逸らした支配人は、地下から上がって来た青年にそう尋ねた。彼の後ろには、満面の笑顔の楓君の姿があった。 …ん? 見ない顔に首を傾げた俺は、その青年を下から上まで舐める様に眺めた。すると、楓君が鼻の下を伸ばしながら教えてくれた。 「シロの彼ぴっぴ!この子、今日、体験入店してたんだぁ!見て?イケメンでしょ…?胸板がプリップリで…はぁ、はぁはぁ…!ストリッパー候補生なの!ん~~!美味しそう!!じゅるじゅる…!はぁはぁ!」 こいつが、ストリッパー? 俺は、眉を顰めて、怪訝な表情で青年を見つめた。 そんな俺の視線なんて気にする事もなく、青年は支配人に笑いながら言った。 「とっても素敵です。俺もここで働きたいです。ストリッパーになりたいんで!」 へぇ… こんな男も居るんだ… 女性客がよだれを垂らして、喜びそうだ。 とうとう、シロの夢が覚めてしまう時が来たな… あの人は自分が爆イケの雄だと勘違いしている時があるから…そういう時、たまに、見ていて、胸が痛くなってたんだ。 これが…雄だ!って、きっと彼が教えてくれる事だろう。 そんな事を考えながら、俺の様子を伺う青年を見下ろして口元を緩めた。 「ほらぁ、シロのステージが始まっちゃう!行こう?仁くん、行こう~?」 楓君に引っ張られて店内へ向かう彼は、心なしか…俺を横目に睨み付けていた。 仁くん…ね。 きっと、生活に困ってるんだろうな… 「女性客が喜びそうなビジュアルだな…」 「はいはい、そらどうも!旦那はシロさんの為に、暖機運転でもスタンバイしに来たの?用が無いならどっか行ってくれっ!厳つい男がいると、怖がって、お客が入らないだろ?とっとと消えなっ!」 この店の支配人は、言葉を選ばないで言うなら…糞野郎だ。 店内へ戻った俺は、階段の踊り場からステージを踊るシロを見下ろして、瞳を細めた。 綺麗だね… お前が一番、綺麗だ。 イギリスで行われた勇吾のストリップ公演で、見事にステージの上を征服した姿は、今、思い出しても…鳥肌が立つよ。 観客を魅了して、彼らのため息を欲しいままにしたね… なんて、美しい表現者だ。 「フォ~~~~!シロ~~~~!」 シロの言う所の…緩急の付いたポールダンスに、お客が一気に沸いて、店内を揺らす程の歓声が上がった。 思うままだ… こうして俯瞰して見ると良く分かる。 …あの人はお客の感情をコントロールしてる。 自分の踊りを魅せて、観客の興奮を、体の底から湧き起こして行くんだ… 「…今日もキレキレだな…あいつは、踊るのが好きだ。」 いつの間にか俺の隣でステージを見下ろしていた支配人は、シロを見つめて、慈しむように瞳を細めた。 このジジイは、シロに惚れてる… でも、大人らしく…節度のある態度を貫いている。 あんたは糞野郎だけど、そんな姿には…好感を抱くよ。 3匹の猫ちゃんに、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいね… 「桜二~!帰ろう?」 仕事の終わったシロを腕の中に抱きながら、俺は店の外を伺いながら彼を車まで誘導した。 「ねえ、聞いて?今日さぁ、仁くんって男の子がストリッパーの体験入店で来たんだけど、腑に落ちないんだよねぇ?だって、ゲイでも無さそうだし、見せたがりな訳でもない。踊りが好きな訳でも無いし、音楽も、ふっるい演歌しか知らなかったんだぁ。」 助手席に座ったシロがそう言って俺の腕をなでなでするから、俺は体を屈めて可愛い唇にキスして、ニッコリ笑って言った。 「なんだ、スーパー仁くんじゃないか…」 そんな俺の頬を両手で包み込んだシロは、ねっとりと俺の唇を舌で舐めて言った。 「ふふ、桜二ったら…お茶目なんだからぁ…!」 俺は口元を緩めてニヤけながら、あの人の舌を口に入れた。そのまま、両手で細くてしなやかな体を撫でて、自分に引き寄せて抱きしめた。 「あふっ…!ん、も…桜二はぁ…オレのステージを見て、興奮しちゃったのぉ?」 上目遣いで聞いてくるシロを見下ろした俺は、可愛い唇を食みながら言った。 「いつも…興奮してるよ…」 そんな俺の言葉にニヤけたシロは、首を傾げてこう言った。 「それは、血圧が…心配になるね…?」 ふふ、馬鹿だな… 笑っちゃったじゃないか… そんな、俺とシロの様子を、スーパー仁くんが店の中から見つめていた。 のんけに見えた彼は、シロに恋でもしているのか…手元の携帯電話をこちらに向けて、まるで、動画でも撮影している様だった。 俺とシロのラブラブが見たいなら、大塚さんみたいに…お前らのセックスを見せてくれと、素直に頼めば良いんだ…。 「シロ?そろそろインフルエンザの季節だ。早めに予防接種を受けてよ?うちの会社のかかりつけ医で打てるから…この日に…ここへ行って、打って来るんだ!」 家に帰った途端、依冬は問診票をシロに手渡してそう言った。 「すぐ、高熱を出すんだから…予防してよ?」 しつこくそう言う依冬を鬱陶しそうに手で払ったシロは、ダイニングテーブルの上に問診票を置いて、上着を脱ぎながらこう言った。 「ん、分かったぁ…!」 絶対、あの問診票はすぐ失くなる事だろう… 俺の予想では、シロは問診票を書くだけ書いて…どこかにしまい込んでしまうんだ。 「はぁ~!もう!何本でも打って欲しいくらいだよ?!」 ダイニングテーブルで水を飲むシロを覗き込んだ依冬は、ボールペンをテーブルの上に置いて、問診票をシロに向けて記入の催促をした。 どうして依冬がこんなにシロの健康に気を配る様になったのか… それには理由がある。 …それは、去年の事だ。 俺が出張で留守にした冬のある日…シロはまんまとインフルエンザに罹った。 飲み会から帰った依冬は、部屋の中を唸って徘徊するシロを見つけたそうだ… 「シロ…どしたのぉ?」 不審に思った依冬は、酔っぱらいながらもシロにそう尋ねた。すると、シロは虚ろな瞳を潤ませて…こう答えた。 「頭がぁ…痛くて、寝られなぁい…!ん、依冬!エッチしてよぉ!」 頭が痛いのに、体を求められた依冬は、勃起しながらシロのおでこを触った。すると、想定外の熱さに一気に酔いが覚めたそうだ。 フルフルと震えるシロの体を抱えながらソファに寝かせると、あの人は、例の如くこう言った。 「依冬…キスして…?」 紅潮した頬…潤んだ瞳と掠れた声にやられた依冬は、シロが高熱を出している事も忘れて、大興奮でキスをした。それは、舌が痺れるくらい熱いキスだったそうだ… 服を脱がせて鳥肌の立ったシロがとってもエロく見えて、依冬は、そのままお得意のローションセックスを楽しんだ。 すると、膝の上に乗せたシロが、突然けいれんを起こして、倒れた。 それで…依冬は、どうしたと思う…? 実に、こいつらしい… 薬を飲ませる訳でもなく、体を冷やす訳でもない。 早々にハングアップして…救急車を呼んだんだ。 真っ裸のまま救急車の到着を待った依冬は…救急隊員の指摘に慌ててガウンを着た…そして、ローションまみれのまま、泣きながら…ぷぷっ!救急車に乗ったそうだ… 病院に着いた時、シロの体温は軽く40℃を超えていた… 結果的に救急車は正解だった。 ローションまみれの体に解熱剤とインフルエンザの治療薬を投入されたシロは、グングンと熱を下げて行った。 ホッと一安心したのも束の間…依冬は重大な事に気付いてしまったんだ。 いつの間にか、外は、深夜から朝を通り越して…昼間の賑わいを見せているという事と…あられもない自分の姿に… 無防備なガウン姿の裾から覗いた股からは、ビタビタに出し過ぎたローションが、乾ききらずにしたたり落ちていたそうだ…ぐふっ! しかし、シロの為に着替えを持って来たかった彼は、決心した。 とりあえずローションだけ拭い取って、ガウン姿で、病院の廊下を歩いたそうだ… この時依冬が着ていたのは、ただのガウンじゃない。 分かるだろ…? シロの趣味によって、可愛い猫の絵柄が付いた…フワフワのガウンだったんだ。 しかも、短いんだ。 フワフワのガウンから、ムキムキの太ももをむき出しにしたまま…あ~はっはっは!依冬は、頑張ってタクシー乗り場まで向かった。 数件の乗車拒否を受けた後…やっと、タクシーに乗り込んだ依冬は、運転手の妙に熱っぽい視線を感じながら、目的地を告げたそうだ。 「お、お客さん…も、も、も、もしかして…その下…す、すすす…素肌ですか…?」 年配の運転手は、体をもじもじと揺らして…依冬にそう言ったそうだ。彼はそんな質問に答えないまま、目的地とは違うホテルに連れて行かれた… そこからは、お察しの通りだ… 泣きながら運転手をボコボコにした依冬は、半強制的に運転手を運転席に座らせて、目的地まで運ばせた… そして、料金を支払って…逃げる様に自宅に戻って、体を縮こませて泣いたそうだ。 ピンクのガウンのおじちゃん… 病院の近所では、そんな妙な不審者情報が流れた。 これは、俺の、事後調査で分かった事だ… 「熱が出たら…冷やせば良いんだ。救急車なんて…ぷぷっ!呼ばないでね…」 そんな俺の言葉に、依冬はムッと眉間にしわを寄せて言った。 「…桜二はあの時いなかったから…!そんな事が言えるんだ!」 はん!笑わせる! 俺はシロの看病には慣れてる… お前とは、年季が違うんだ。 ただの風邪でも平気で40℃を叩き出すこの人には、早めの解熱剤投与が大事なんだ。 しかも、お尻から入れる解熱剤が良い… 苦しむ顔を覗き込みながら、熱くなった中に指を差し込んで行くんだ。 解熱剤が指先でドロリと溶けて行く感覚が…はぁ…堪らなく、好きなんだ。 「悪いね…俺はプロだよ…?」 どや顔を依冬に向けてそう言った俺は、いそいそとシロの後を追いかけて風呂場へと向かった。

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