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第4話

俺が目覚めたのは三日後の病室だった。 倒れた原因は魔力切れで、普段なら寝て食えば一晩で回復する所こんこんと眠り続けて三日。本当にもう命が尽きるギリギリまで根こそぎ持って行かれた感じがする。 「で、少将は?」 ベッド脇に丸椅子を持って来て足を組むクライル大佐の無精髭をベッドの中から見上げると、見舞いに持って来たゼリーを自分の口に運ぶ大佐は、プルンと透明に揺れるピンクの向こうでそれがなぁと呟いた。 「まだ意識が戻らない。心臓は動いてるんだけどな」 それってまさかの、死んでいた? 既に魂が離れてしまっていたのに、肉体だけを蘇生させてしまったという事だろうか。 それはまずい、甦り魔法は最大の禁忌とされていて、公開処刑が決まってる。 それよりも一度死んだ肉体は生き返っても不都合が無いのだろうか。 思い出すのはガイ少将の真っ白な横顔だ。 「意識が戻る可能性はありますか?まだあんなに若いのに」 「お前自分の心配しろよ」 「裁判になったらどうせ処刑っす。ガイ少将がこの先何十年もずっと植物状態なんて事になったら、そっちの方が辛い」 死ぬより半生の方がよっぽど大変だ。 だけどあの時は助けたいと思った。対魔団に同行した治癒隊員が瞬時に肉体保護の魔法をかけていたとしたら助かる、だから……本当に瞬時に魔法をかけたのか確認もせずに咄嗟に術に踏み切った。自分の判断で。 なんて事をしてしまったんだ。 掛け布団の上でぎゅっと強く拳を握った。 「上はお前の扱いをどうしようか騒いでる。何しろあれだけの事をやり遂げたんだから、並の魔力量じゃねぇだろ」 「並ですよ。あれは大勢の人が魔力支援してくれたからで、大佐だってしてくれたじゃないですか」 「いや、並じゃねぇよ。人それぞれ魔力の波動は違うから、貰っても思うようには使えない。それをあれだけ多数から受けて全部自分の物に変換させて放出し続けたんだから、お前一人で一つの軍隊から魔力を吸い上げてお返し爆撃出来るだろ」 ……なるほど。 つまり飛んできた相手の弾を使って撃ち返す機関銃みたいなもんか。 「そうなると俺、治癒隊でいいんですかね?最前線に置いた方が使える人材な気がします」 「そーいうこった。処刑よりマシだろ」 人が悪そうに笑うクライル大佐にげんなりする。 嫌だ。なんて事だ、最前線になんか行きたく無い。戦争なんか怖いし絶対嫌だ。だから有事の際にも後方支援の治癒隊を選んだんじゃないか。 そもそも好きで軍に入った訳じゃ無くて、学も無ければ金も無いから生きて行くのに仕方無くだ。生まれつき治癒力に恵まれていたのが幸運で、せっかく希望通り配属されたのに。 「まぁ、あの少将は公爵様の大事な大事なお坊ちゃんだ。殺す訳にはいかないから死んでたなんて上が認めない。中身が無くても器だけ生きてりゃお前は無罪だよ、良かったな」 それじゃあずっと……。 「ガイ少将の部屋はどこですか」 そう尋ねると大佐は少しためらった後で、最上階の特別室だと教えてくれた。

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