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第5話
大佐が業務に戻ってから起き上がると、三日間眠り続けていた身体は動く事にギシギシと悲鳴を上げた。
そりゃそうだろう、三日も寝てれば筋肉が衰えて身体もおかしくなる。
それでも準備運動をして、ハンガーに掛けてあった白衣に着替えてからギクシャク歩行で病室から出ると、廊下にはいつも通りの職場の光景が広がっていた。
車椅子や歩行器を使ったパジャマ姿の患者が廊下をのんびりと歩いていて、俺と同じ白衣の職員が忙しなく行き交っている。
「セレス、もういいのか?」
すれ違った職員の何人かに声をかけられて、それに挨拶を返しながら向かうのは最上階の特別室。
開いたエレベーターの扉を出ると、その階は音の無い世界みたいに静まり返っていた。同じ建物の中なのに下々が過ごすいつも騒がしい俺の担当階とは大違い。
長い廊下を歩いて角部屋のドアの前に護衛の騎士が二人椅子に掛けているので、少将はあの部屋だろう。
白衣を着ているのでここまで来るのは怪しまれなかったけれど……と思いながら名札を見せると、護衛の騎士は頷いてあっさりとドアを開けてくれた。
逆に大丈夫か?これでは白衣を着ていれば奪った名札でも通すって事で、ガバガバな気がする。
初めて入った特別室の床には落ち着いた色の絨毯が敷いてあって、壁面に大きなテレビと高そうな応接セットがあった。もちろんトイレも風呂も完備で、冷蔵庫などもある。びっくりしたのはウォークインクローゼットがあった事。パジャマを何十着持ってくる設定なんだろう。
そんな広い部屋の大きなベッドには、目当ての人が横たわっていた。
近付いてまず顔を見れば、少将はあの時と同じ真っ白な顔色をしている。
とりあえず俺はいつも制服のポケットに入れている小型の計測器で少将の血中酸素濃度を測る。
夜勤の時など寝顔が死んでるみたいな人は多いので、わざわざ起こさなくても簡単にある程度の容態が分かる便利グッズ。
布団をめくって少将の手を取り、ついでに近くで改めて顔を見て、凄い美形だなと見惚れてしまう。
身分の高い人は綺麗な嫁が貰い放題なのでその子供も綺麗な人になる。という事を繰り返して貴族には驚く程の美形が多いと聞くけれど、その中でもきっと彼は別格だろう。寝顔なんて大抵の人は酷いのに、見惚れる程に綺麗だ。
測定器は睡眠時の安定した数字を示して、ついでに血圧と心拍数も表示してくれた。
全て正常。
ここまでは予想の範囲だ、だって器だけは生きてるとクライル大佐から聞いていた。
じゃあ何が悪い?
何がダメで意識が戻らない?
上掛けをまくり上げてシルクのパジャマで横たわる少将の身体を眺める。
手足が長くてバランスのいい肢体。掌に魔力を込めて、まずは肺の位置に服の上から触れて確かめ……ようとして固まった。
パジャマの胸を押し上げている膨らみがある。
え?
それはどう見てもおっぱいの位置にあるけれど、あれ?
ええ?
前見頃を交互に合わせた胸元に豊満な胸の谷間が見えている。
少将は女だったっけなと考えて、どこからどう見ても男だ。いや、軍には男のような女性も多いので……。
「失礼」
パジャマの股間をそっと撫でたら、ふにゃんと柔らかい物が有る。
あった。
おっぱいも有るのにちんこも有るのは問題じゃないか?
……これはどういう……いや、先に分かる事から済ませよう、傷の確認だ、そうだ、そっちが先だ。理解できない事は後で考えてと、えーと、心臓、食道、胃。この辺りから下がくっつけた位置で……と、念入りに体内の様子を掌で探るけれど、特に原因と思われるミスは見つからなかった。
完璧に修復出来ている。
……おっぱい以外は。
いや、股間以外は?どっちだ、どっちが付いてるのが正しいんだぁぁぁぁぁぁ!
実はおっぱいじゃなくてメロンが入っているのかも知れない。確認する事が大事だって散々思い知ったので、ちゃんと目視おくべきだと、俺はパジャマの合わせに手を掛ける。
が、万が一本当におっぱいだった場合勝手に見たらまずくないか?
いやいやいや、それを確かめるために見るわけで……男なら股間を見た方が無難じゃないか?
俺と同じ物がついてるのを確認した方が……待て待て待て待て、もしも女性だったら股を見る方が大問題だ。
そうだ!きっと胸筋だ。おっぱいの膨らみ方ととってもよく似てしまった筋肉。筋肉、それはおっぱいじゃない。こんなデカい胸筋を隠し持ってるなんて、さすが少将。
とりあえず見てみよう。
俺は決して見たいんじゃない、胸筋だって確証が必要なんだと服の合わせを開こうとして気づいた。
少将の瞼がうっすらと開いている。
起きてる〜。
まだおっぱい見せて貰って無いのに、少将が起きてる〜。
そこじゃない。
一瞬ドキッとしたけれど意識の無い人の瞼が開くとか涙をこぼすとか指先が動くとかはよくある事で、俺は瞳孔を確認するために少将の瞳を覗き込んだ。
へぇ、瞳の色は緑なんだ、どこまでも美しい人形みたいな人だなと思って……羽のようなまつ毛がふっと上がって、視線がカッチリぶつかった。
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